Hanacell

Nr.14 「角ばった文化」と「円い文化」

ドイツの都市を歩いていて、方向感覚がどうも掴めないという気分になることはありませんか?私は最近、どういうわけかとても気になります。古くからある都市では中央に教会や広場があって、そこから外側へ向かって放射線状に道が延びています。碁盤目が基本の日本の都市とはどうも勝手が違います。

京都は中国に学び、古代の「都市計画」によってつくられた都市です。ドイツの都市の多くも12世紀ごろにつくられたそうです。都市と言っても大部分は人口2000人以下だったようです。そのうちの幾つかが近代都市に発展する過程では日本にない特徴が見られます。外敵から守るために都市を囲んで城壁を築いたのです。やがて人口が増えると、城壁は外へ外へと拡張されます。このため都市は同心円状に広がっていきました。

碁盤目状の「角ばった都市」と同心円状の「円い都市」では、地理感覚が違います。中央に近い地点Aから斜め外側にあるBに行く場合、碁盤目状ならタテ・ヨコどちらを先に曲がっても距離は変わりませんが、同心円の場合には大きく違ってきます。横の距離は円の内側ほど短く、外側に行けば行くほど長くなります。また円形にカーブしていきますから、方向が少しずつ変わります。よほど意識しないと、私たちは「円い」都市文化の中で大きく遠回りしたり、迷子になったりしがちです。

「角ばった」文化圏では大体の方向を決めて歩けば、さほど大きな間違いはありません。「円い」文化圏では地図を思い浮かべて、前もってどの道を通るか考えてから歩き出す必要があります。ここまで書いて思い出しましたが、昔、笠信太郎というジャーナリストが、歩きながら考える文化と、走り出してからシマッタと思う国民性の比較をしていました。もちろん「歩く/走る」は比喩で、考えることと行動することの関係を問題にしていたと思います。

©Sae Esashi

ヨーロッパの街を歩くときは、都市の構造と規模からくる違いに影響されるようです。ドイツ語圏の都市なら大体の見当がつくのに、フランス語圏ではいつも迷います。きっと都市の基本構造が違っているのでしょう。それにフランス人の考え方には馴染めないことが多いのです。そんなとき、歩くという基本的な行動とその文化の特徴は相関関係にあるなどと偉そうに考えると、なんだか大発見でもした気になり、自分の失敗が許せます。

異文化世界に住んでいると、こうした「ボーナス」のおかげで、自分と折り合いがつけやすいのかなと思う今日この頃です。

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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