ジャパンダイジェスト

Nr.15 古いほど素晴らしい?

「13世紀に建てられたお城に行きましょうか。それとも有名な建築家XYが設計した超モダンな美術館を見に行きましょうか」――。そう聞かれたら、皆さんはどうしますか。現代美術に関心のある方なら、美術館の建物も展示品も魅力でしょうから、そちらを選ぶでしょう。そうでなければ、一般的には「古い」お城の方が魅力的なのではないでしょうか。「古い」ということは、それ自体に価値があるように思われています。ヨーロッパ人が一生に1度の日本旅行を企てるなら、東京より京都や奈良を訪れたいでしょうし、西洋の影響下で成立した100年ほど前の建物より、古いお寺の方が魅力的でしょう。

©Sae Esashi

ヨーロッパ人が「観光」に目覚めたのは、19世紀の後半といわれています。市民層が豊かになって、特権階級でなくても旅が出来るようになったのです。その皮切りはパリの万博で、イギリス市民は貸し切り列車に乗って、ガイドつきで万博を訪れたといいます。鉄道の切符やホテルの手配をしなくて済み、外国語が分からなくても困らないわけです。こうして観光は市民に開放され、スイスのアルプス、ライン川沿いの古城などの「定番」が発見されていきます。

これら観光地の特徴は、「自分の文化にはない、エキゾチックあるいはロマンチックなもの」を求めることでした。大きな話題になっている万博、自国にはない雄大な山岳の威容、大河とそれにまつわる古い歴史などが、まずは観光の対象となったのです。

そして時代は、まさにロマンティシズムの真っ盛り。自国にない風景は水平方向に見て遠い存在ですが、時間軸で見て遠い存在が「古い」ということなのです。目にする対象そのものを全体として見るのでなく、また理解するのでもなく、旅する者が「見たいもの」しか見ないのが観光の特徴です。この頃に形を成しつつあった「日本研究」も時代の子でした。数十年前までドイツにおける日本学は、明治以前の日本を主たる対象にしていました。つまり「日本らしさ」は、近代西欧の文化に触れる前の「無垢」な日本にしかなく、明治以降の日本は西欧によって「汚染」されてしまったと言わんばかりです。こうした発想は、ときおり年配のドイツ人に今でも見受けられます。

ある外国研究者は、こうした姿勢の特徴として、「自国文化にないものを他文化に求め、自国文化の中の嬉しくない要素は消し去ろうとする」傾向を指摘しています。これが一方的なものであることは言うまでもありません。どうして、こういうことが起きるのでしょう。

 
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Koji Ueda ケルン日本文化会館館長
早稲田大学、筑波大学でドイツ文化および異文化交流を担当。NHKのテレビ、ラジオ「ドイツ語講座」元講師。留学や客員教授などを合わせた在独歴は十数年。ベルリン日独センター副事務長(日本側代表)を経て、2007年3月より現職。
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