ニベア NIVEA
純白の雪のようなクリーム
暖かな日がどんどん増え、自転車乗りの私には楽しみな季節がやってくるが、それでもまだ、思いっきりペダルをこぐと、顔いっぱいにキーンとするほど冷たい風があたり、手袋なしでは、家に着くころには手のひらはかじかんで、ジンジンしてしまっている。そんなときはニベアのクリームが必需品。深いブルーのまあるいケースにたっぷり入った、雪のように真っ白なクリームを指先ですくって手に馴染ませると、じわーっと温かさが伝わって、さっきまでのカチコチがほぐれていく。
会社創立を支えた3人の男性
初めて発売されたニベアク
リーム(上)と現在のもの
Fotos: ©Beiersdorf AG
90年、同社を買収したオスカー・トロプロヴィッツ博士のもとで、会社の基盤はぐっと固まる。バイヤースドルフの同僚でもあったトロプロヴィッツはウナを右腕に抱え、粘着テープやゴム絆創膏などを次々と開発する。これらは、後に同社の看板ブランドの一つとなる粘着テープ「テーザ(tesa)」の基礎となるものだが、その話はここでは置いておくとして、実はそのころ、時を同じくして、ニベアが生まれるきっかけとなったある一つの研究が進んでいた。
乳化剤の開発がきっかけに
イザック・リフシュッツ化学博士は1900年、乳化剤「Eucerit」の開発に成功する。乳化剤は、油と水という、本来混じり合わない成分を均一な状態にする作用をもつ物質だが、当時の医学界においては革新的であったこの成果に、トロプロヴィッツらは目を留めた。
トロプロヴィッツは11年、リフシュッツから特許を得て、早速「Eucerit」を利用した多目的クリームの開発を始める。そしてその年の暮れに、町の薬局に並んだ新製品、それがニベアクリームだった。ニベアクリームは当初から今日まで、構成成分がほとんど変わっていない。水、グリセリン、パンテノール、クエン酸……、そして主成分は「Eucerit」である。
時代が求める女性像を広告に
ニベアクリームといえば、青と白のシンプルなケースでお馴染みだが、最初に登場したのは、これとはガラリと雰囲気の違う装飾的なものだった。黄色の地に緑でツタの模様が軽やかに描かれ、当時流行していたユーゲントシュティールを思わせる。
それが現在のようなすっきりとした2色使いに変わったのは、25年のこと。エレガントで家庭的な女性が理想とされ、またそういった女性たちを購買ターゲットにした時代は過ぎ、戸外で陽光を浴びる健康的な女性が支持される時代が到来し、ケースもそれをイメージさせるものに変わったのだ。
ニベアの歴代の広告ポスターにも、時の移り変わりを見てとれる。ニベアが誕生した翌年の12年に、同社が初めて打ち出したポスターは、星が散りばめられた優しい女性の顔が全面にプリントされた。ほかにも、うつむき加減ではにかんだように微笑む、透き通るような肌の女性など、20年代前半ころまでは、壊れやすくはかない女性「femme fragile」が好んで描写された。
しかし20年代後半になると、今度は打って変わって3人の利発そうな少年がモチーフに選ばれる。こざっぱりとして活動的な姿が、当時の女性に受け入れられるようになっていたのだ。ちなみに、戦後に作成されたポスターに描かれた女性は、小麦色に日焼けして、真っ白な歯をのぞかせて快活に笑っている。
180カ国以上で愛用
ハンブルクにある本社
Fotos: ©Beiersdorf AG
バイヤースドルフ社は今年、創業126年を迎える。当初からの主力製品であるニベアは現在、世界187カ国に普及し、日本でも68年からニベア花王が商品展開する。
ニベアクリームにも「仲間」が増えた。ラインナップはフェイス、ボディー用クリームや化粧水、乳液から、サンケア、メンズケア、ベビー用商品まで充実し、昔からの愛用者から、時代が変わっても変わらない良品を求める若者までが手に取る。
「ニベア」とは、ラテン語で雪を意味する「nix, nivis」から派生させてトロプロヴィッツが付けた名。80年以上、ほとんど変わらない青と白のクラシックなケースに入った純白のクリームから想像するものは、いまも昔も同じようだ。