ツヴィリングJ.A.ヘンケルス ZWILLING J.A. HENCKELS
刃物の町から世界へ
1731年に双子マークを商業登録
毎日使うスプーンやフォークは、できるだけシンプル で飽きのこないデザインがいい。でも長く付き合うものだから、ちょっとブランドにもこだわりたいし…。いろいろ探して見比べたあげく、奮発して買い求めたのがツヴィリングJ.A.ヘンケルスのカトラリー。隅に刻まれた小さな双子の絵柄がトレードマークだ。ずいぶん使って持ち慣れた感じも、この頃案外悪くないなと思っている。
「双子」とともに世に誕生
ツヴィリングJ.A.ヘンケルスは中西部の町ゾーリンゲン(Solingen)で1731年に誕生した。創始者は刃物職人のペーター・ヘンケルス。6月13日、星座で言えばふたご座にあたるこの日に、彼はゾーリンゲンの刃物職人組合に「Zwilling」という名と双子の絵柄を登録し、輝かしい歴史の1ページをスタートさせた。
登録当時の貴重な書面は今も残されているが、そこに描かれた双子たちはよく見るとちょっとポッチャリさん。現在の、スマートな双子のデザインとは違い、どちらかと言えば愛嬌のあるタイプだったようだ。
初の支店をベルリンにオープン
1771年、ヨハン=アブラハム(Johann Abraham)・ヘンケルスが誕生する。今日まで社名として続く「J.A.ヘンケルス」は、彼の名から付けられている。ヨハンは1818年にベルリンに初の支店をオープンするなど、息子たちに舵取りを引き継ぐまで、同社の基礎固めに力を注いだ人物だった。
刃物の町ゾーリンゲン
ゾーリンゲンの町についてお話しよう。現在の人口はおよそ16万人、デュッセルドルフの南東約50キロに位置するこの町は、「緑に囲まれた産業の町」として古くから手工業が盛んだった。鍛冶に必要な薪や良質の鉱石が豊富に採れる自然資源に恵まれていたことなどから、12世紀頃にはすでに優れた刀鍛冶マイスターが多く育っていたという。
刀鍛冶から一般家庭用の刃物やカトラリー製品へ、時代とともに用途は変遷したが、長年培われてきた技は今も健在だ。現在ゾーリンゲンには、ツヴィリングJ.A.ヘンケルスを始め国内全体のカトラリー生産企業の90%が拠点を置き、「刃物の町」としての伝統を受け継いでいる。町には、地場産業の歴史を紹介する博物館なども点在する。「クリンゲン博物館」や「産業博物館」などを訪ねてみるのもおもしろいだろう。
1938年に発売を開始した料理用はさみのポスター
料理好きが手に取る包丁
左)ベストセラーを続ける
「4つ星シリーズ」
右)275周年を記念し発売された
「ツイン 1731シリーズ」
1本の包丁を買うとき、重要視することといったらまずは切れ味。毎日使うものだから使いやすさも大きなポイントのひとつだろう。ツヴィリングJ.A.ヘンケルスの製品は、刃物に適した鉱物の純度が高いステンレスを使用しているため、長く愛用できると定評があるほか、人間工学的に考えられた機能性を備えている。肉や魚用、果物を切ったりするペティーナイフ、パンナイフなど、用途に応じて持ち手のフィット感一つにもこだわった製 品作りが同社のモットーだ。
現在展開する包丁のシリーズの中で最も人気があるの は「4つ星シリーズ(Vier Sterne Serien)」。使用時の安全性を考慮し、柄の先の部分が曲がった形になっているのが特長だが、そのクラシックなデザインも、1976年の発売開始から今日まで変わらず支持されている理由のひとつだろう。このほか、「プロフェッショナルSシリーズ」はその名の通り、プロはもとより、プロ顔負けの本格派が支持するこだわりの1本だ。
ローマ法王の食卓を飾る
昨年、ツヴィリングJ.A.ヘンケルスは創業275周年を 迎えた。いまでは国外市場の売り上げが全体の80%を占め、その名が世界に知れ渡る同社は、デザイン・高品質・高機能を追求したプレミアムブランドである「ツヴィリング」と、リーズナブルなバリューブランドの「ヘンケルス」を2本柱に、包丁を始めとするキッチン用品を主体にネイルケア用品や多目的ばさみなどのホビー用品まで、日常の必需品を中心に製品展開する。
3世紀近くにわたり受け継がれてきたマイスターの技と伝統に加え、ライフスタイルの変遷とともにデザイン性にも磨きをかける同社は昨今、本国ドイツはもとより日本でも数多くのデザイン賞を獲得している。ドイツ産業見本市とドイツ産業連盟(BDI)のインダストリアルデザイン協議会が主催する「IFデザイン・アウォード」には「ツインコレクション」のナイフが、日本産業デザイン振興会が運営する「グッドデザイン賞」には「ツインシリーズ」の料理用はさみや鍋、フライパンのシリーズが選ばれている。
現在、100カ国以上の国々で愛用されている同社の製品だが、なんとローマ法王ベネディクト16世もファンの一人だというから驚きだ。母国ドイツを誇る法王は、バチカン市国での毎日の食事を、ゾーリンゲンから贈られた法王の紋章入りのカトラリー「メテオ・シリーズ」で楽しんでいるという。
双子のロゴの移り変わり
ツヴィリングJ.A.ヘンケルス http://www.zwilling.com
写真:ZWILLING J.A. HENCKELS