リモヴァ RIMOWA
100年の歴史を詰め込んだスーツケース
メタリックなシルバーが光に反射し、さりげなく存在感をアピールする。夏休み気分が漂うこの時季、空港や駅のホームでよく目にするこのスーツケースは、旅行者で賑わうドームの街を拠点とするリモヴァ社が生みの親。フットワークを軽くして、快適な旅をしたいなら、ちょっとやそっとじゃへこたれない、こんな相棒を連れていこう。
ケルン生まれのかばん屋
リモヴァ社はケルンの市街地で1898年、パウル・モルスツェックが旅行かばんや革製品のメーカーとしてスタートさせた。当初は、その頃一般的だった木製の大型トランクや、車旅行のためのかばんなどを主に手掛けていたという。
商用旅行が増え始めていた1937年、パウルは息子のリヒャルトとともに、同業他社をあっと言わせる。今日まで続く同社のトレードマーク、アルミニウム製のスーツケースを世に発表したのだ。戦中、同社の工場の大部分は空爆を受けて壊滅し、原材料である皮や木材などは保管庫もろとも燃やされてしまうが、アルミニウムだけはかろうじて「生き残った」という。頑丈なこの素材の未来を予感させる出来事だったのではないだろうか。
戦後まもなく、英軍からスーツケース製造の再許可を得たリヒャルトは、早速アルミニウム製スーツケースの販売を開始する。戦後世代に、始めこそは驚きの目で見られた「新参者」だったが、旅の手段に飛行機が登場するようになる新たな時代の機運に乗り、少しずつ、そして着実に顧客を増やしていった。
創業初期の広告ポスター
アルミニウムと「波打つ」デザイン
リモヴァのスーツケースの特徴は2つ。1つはもちろん、素材にアルミニウムを使用していること。そしてもう1つは、表面が凹凸に波打ったデザインだ。
アルミニウムは前述したように、何と言ってもその耐久性が売り。同時に軽量であること、耐寒・耐熱性に優れていること、またリサイクルが可能なことなども特長だ。
さらに同社は近年、アルミニウムに加え、ポリカーボネートを新たな原料として取り入れている。あまり聞き慣れない名前だが、ポリカーボネートは耐衝撃性に非常に優れており、へこんでも自然に元に戻る性質を持つため、スーツケースの形状を美しく保つことができる。また125℃からマイナス100℃までの状況に対応できるという。ちなみにポリカーボネートは、警察が使用する防御用の盾や飛行機の防炎用ガラス、はたまたローマ法王の足「パパモビール」 にも使われているというから、何と言うかつまり、怖いものなしというわけだ。
そして、忘れてはならないもう1つの特徴が、同社製品のトレードマークであり、同社が追及する美学の結晶とも言えるオリジナルデザイン。2代目リヒャルトが1950年に初めて開発したデコボコに波打った表面のデザインは、アルミニウムのクリアなラインが際立ち、スーツケースをより丈夫なものにするのにも一役買っている。
誕生したのは1950年代。クラシックな「Topasシリーズ」
「すべてのスーツケースには物語がある」
人気急上昇の「Tangoシリーズ」。
米運輸保安局(TSA)規定の鍵を使用
創業から110年余り。流行に惑わされることなく、どの時代にも求められるスタイルを確立してきた同社の製品だが、一方では、その流行の発信源として重要な役割を果たす映画の中で、脇役として「出演」する機会もここ数年増えている。トム・クルーズ主演「ミッション・インポッシブル3」(2006)や“ブランジェリーナ”の共演で話題となった「ミスター・アンド・ミセス・スミス」(2005)、「スパイダーマン」 や「オーシャンズ11」(ともに2002)など、ヒット作がずらり。まさに「すべてのスーツケースには物語がある」という同社のモットーがスクリーンの中でも生かされ、使う人、使われる場所の数だけ物語が生まれていると言えるだろう。
最後になるが、実はリモヴァ社はスーツケースに負けず、本社屋と工場もまたスタイリッシュでおもしろい。ダールベンダー、ガーテルマン、ショシッ クら建築家が手がけ、1987年には「ドイツ建築賞 (Deutscher Architekturpreis)」を受賞したこの建物は、「世界最大のアルミニウムのスーツケース」と呼ばれている。足を伸ばす価値はありそうだ。
まるで映画のワンシーンのよう
リモヴァ www.rimowa.de
写真提供:RIMOWA GmbH