ジャパンダイジェスト

クナイプ Kneipp

クナイプ神父が授けた健康の秘訣

大きな刷毛で、濁ったグレーの絵の具をさっとひと振りしたような空の下、1日の仕事を終えて家路に着く。猫が寒さをこらえているみたいに自分も首を縮込ませていたことに気づき、大きなため息をつく。なにがあったわけではないけれど、そういえば気分もいまいち。そんなとき、小さなバスタブに湯を張り、指の先まで冷えた体をそこに沈める。お気に入りのクナイプのバスオイルを数滴落として。

ヴュルツブルクで産声

クナイプ
バスソルトやバスオイルは
種類が豊富。その日の気分や
体調で選びたい ©Kneipp
さまざまなハーブを素材としたバス・ボディケア製品などを手がけるクナイプ社が誕生したのは、いまから110年以上前のこと。ヴュルツブルクの「エンゲル薬局」にヨードチンキや便秘薬、各種ハーブのジュースなどが並んだのが始まりだったという。生みの親は、製品パッケージに描かれているイラストの人物、ゼバスティアン=アントン・クナイプだ。

ギリシャ・ローマ時代に盛んになったといわれる「水治療」の長い歴史を語るうえで欠かせない存在であるクナイプは、生涯を聖職に捧げる傍ら、自然治癒力に着目したいわゆる「クナイプ療法」を提唱した人物として知られる。彼が「ゼバスティアン・クナイプ」の名の下に、それまで積み重ねた研究の結晶である自然調合薬の製造から販売までの権利を、薬剤師である友人レオンハルト・オーバーホイサーに託した。それにより、今日まで続くクナイプ社のマイルストーンを1891年、ヴュルツブルクに築いたのである。

不治の病を「水」で克服した神父

クナイプ
ゼバスティアン=アントン・
クナイプ神父

クナイプは1821年、バイエルンとシュヴァーベンの境、アルゴイ地方の町シュテファンスリートに生まれた。家庭が貧しかったため、父の後を継いで機織りを将来の生活の糧にするよう周囲に言われて育ったゼバスティアン少年だったが、将来の夢は実は聖職者になることだった。

転機が訪れたのは、当時は不治の病だった結核が彼を襲った25歳のときのこと。医者に見離され、なすすべがなかった彼に奇跡が起きる。ヨハン=ジグムント・ハーン医師の『水の治癒力に関する教本(Unterricht von der Heilkraft des frischen Wassers)』に、いま思えば運命的に出合った彼は、そこに書かれていることに従い、氷のように冷たいドナウの流れに病んだわが身を幾度となく沈め、ついには病を治してしまったのだ。

「水治療」の偉大な力を身を持って知ったクナイプが、 この治療の研究を自分に課せられた生涯の仕事に決めた のも、ごく自然な成り行きだったと言えるだろう。31歳 で神父となった彼は寒冷浴を日課に加え、「水治療」の研 究に力を注ぎ始める。

ゆかりの地として現在知られるバート・ヴェリスホーフェン(Bad Wörishofen)に、彼が居を構えたのはそのころだ。聴罪司祭として赴いたその小さな村で、彼は現在まで伝わる「クナイプ療法」を唱え、それは次第に民衆の間に広まった。治癒のための浴場が町のあちこちに設けられ、近隣からも足を運ぶ人が日に日に増えた。クナイプとオーバーホイサーは、そんな折に出会うべくして出会ったのである。

その後クナイプは、さらなる「クナイプ療法」の伝播を目指してヨーロッパ行脚を開始、97年に当時としては長寿である76歳でこの世を去った。

製品
左)およそ300人が働くクナイプ本社 ©Kneipp 
右)昔の水療法風景 ©Bad Wörishofen

50種以上のハーブの恵み

クナイプの遺志を継いだオーバーホイサーの下、クナイプ社は一企業として成長のときを迎える。そして2度の世界大戦を経て21世紀を迎えた今日まで、クナイプの志は脈々と受け継がれている。

現在同社は、ヴュルツブルク近郊の町オクゼンフルト・ホーヘシュタットとバート・ヴェリスホーフェンに2大拠点、世界およそ20カ国に販売網を持ち、ボディー・ヘアケア商品、紅茶などの飲料水や健康サプリメントまでを幅広く展開している。

もちろん、どの製品にも自然の恵みがたっぷり。使われているハーブは、「A」の「アセロラ(Acerola)」から始 まり「Y」の「イランイラン(Ylang-Ylang)」まで50種類以上、まるで植物図鑑を見ているようだ。薬局やドラッグストアには同社の製品が所狭しと並び、「カサカサした肌をツルツルに」とひと口に言っても、バスオイルやバスソルト、エッセンシャルオイルやクリーム……と、あれこれ目移りしてしまう。

私のこの冬のイチオシは、アーモンドとバニラの甘い香りに、オレンジと丁子でアクセントをつけたバスオイル「冬のハーモニー(Winter Harmonie)」。名前を聞いただけで、グリューワイン片手に冬ごもりしたくなってきませんか?

クナイプ療法


Bad Wörishofen ©Bad Wörishofen
1 水療法(Wasser)
2 ハーブ療法(Kräuter)
3 運動療法(Bewegung)
4 食事療法(Ernährung)
5 調和療法(Ordnung)

クナイプは、5つの要素のハーモニーが大切だと唱えた。現在、発祥の地であるバート・ヴェリスホーフェンほか近隣地域にはクナイプ保養地として森林散策コースやクアハウスなどが数多く設けられ、年間100万人以上が訪れている。

Kneipp www.kneipp.de

 
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