第30回 非居住者に対する課税控除
所得税法(50条a)は、ドイツ以外の国に所在する企業や自営業者に対して、場合によっては直接ドイツとの取引関係がなくても、ドイツ国内での納税義務を課しています。例えば、国外に居住するミュージシャンがドイツ国内の企業イベントなどで公演する場合や、ドイツ国内から国外の企業に対してライセンス料が支払われる場合などがこれにあたります。
1)課税控除義務
外国法人または非居住者がドイツ国内で収入を得た場合、ドイツ国内で制限納税義務(beschränkte Steuerpflicht)が発生します。これは支払い時の源泉課税という形で処理されます。つまり、ドイツで役務(サービス)を受領した者(債務者)が、国外の役務提供者(債権者)に代わって税額を控除する(差し引く)のです。債務者は支払額から税額を控除して納税する義務を負っています。これは、被用者の賃金税が給与支払いの際にあらかじめ差し引かれるのと同じシステムです。
所得税法50条aに基づく課税控除は、特に以下のような場合に、納税者に対してドイツ国内で制限納税義務を課しています。
①ドイツ国内での芸術、スポーツ、興行などの催しで得られた収入が発生した場合。企業や自営業者としての立場で得た収入がこれにあたります。ただ、すでに控除が済んでいる場合、例えば、自営業でない形の業務をドイツ国内で提供し、その収入に対して賃金税が源泉課税された場合などは、控除を行いません。
②著作権や工業所有権(特許権や商標権など)の使用許可に対する支払いにより収入が発生した場合。商業上、技術上、または学問上の経験、知見、技能などが該当し、具体的には図面、サンプル、プロセスなどがこれにあたります。使用許可に対してのみ課税控除義務が発生し、権利譲渡は対象外です。
③ドイツに住居または常居所を持たない監査役に支払われる監査報酬が発生した場合。
以上のような業務内容に対して国外の受領者に支払われる報酬は、課税控除の対象となります。
2)控除、納税および申告
税金は、債権者に報酬の支払いが行われる時点で発生します。この時点で、債務者は債権者からの請求書に対して課税控除を行います。控除した税金の申告と納税は年に4回、債務者が四半期終了後の翌月10日までに行います。申告は、税務署指定の書式に従い、電子申告の形で手続きします。
債務者は債権者に対し、当局発行のサンプル書式に従い、課税控除を要求した事実を証明する義務を持ちます。これがあれば、債権者はドイツ連邦中央税務庁(Bundeszentralamt für Steuer)に還付申請を提出することが可能になります。
3)課税標準と課税控除額
課税控除の標準となるのは、支払いの全額です。対象外とされるのは売上税(Umsatzsteuer)と、 債務者から還付された、または債務者が直接負担した交通費です。
課税標準に適用される税率は、監査役報酬に対しては30%、その他種類の報酬に対しては一律15%です。このほか、課税控除額に対して5.5%の連帯税(Solidaritätszuschlag)が課税されます。
4)2国間租税協定にもとづく免除
以上が課税控除の手続きですが、実際には、2国間の租税協定で定められた二重課税防止措置により、国外の債権者に対してはドイツでの課税控除義務が免除されているか、または低い税率が課せられるケースがほとんどです。ただ、原則的にはこの場合にも、まず課税控除の手続きを踏まなければなりません。
債務者が源泉課税の形で控除を行わなくて良いのは、連邦中央税務庁が債権者に対して免税証明書(Freistellungsbescheinigung)を発行し、債務者が課税義務発生時点(支払い時点)にこの証明書を入手している場合です。
5)まとめ
今回はドイツの所得税法50条aに基づき、制限納税義務者に適用される課税控除手続きについて概要をご紹介しました。しかし実際には、納税者個々の事情に応じて、納税条件を精査する必要がある場合がほとんどです。
上記税法以外の規定によって制限納税義務が発生する場合もあり、また上記に挙げた興行や著作権使用料以外の収入に納税義務が課されることもあります。例えば、非居住者が得たドイツ有限会社取締役としての収入、また固定資産やドイツ国内にある不動産の賃貸収入などがこれにあたります。源泉課税の形で納税が行われない限り、所得税申告義務が発生します。
このように、国外居住者に対する課税ルールは多岐にわたります。当社では喜んで皆様からのお問い合わせにお応えいたします。
(筆者:税理士ファブリス・ベーナー)
リンケ・トロイハント会計税理事務所
ジャパンデスク
担当:田中
www.rinke-japan.de
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