欧州・ドイツの歯科医院チェーン化について
日本でチェーン店というと、全国津々浦々に展開しているコンビニエンスストアが代表的ですが、その店舗数はいまや5万軒超。ドイツでもALDIやREWE、dmといった多くのチェーン小売店が身の回りにあり、私たちの生活を便利にしてくれる欠かせない存在となっています。
そのチェーン化が現在欧州全体の歯科医療業界でも拡大しつつあり、その是非が大きな議論となっています。医療市場はもともと保守的な傾向が強い業種ですが、特に病院や診療所は国民の健康を担う非常に重要な役割を果たしているということで、長い間そこにビジネスを持ち込むことは禁忌とされてきました。しかし、現在では人口が増えて平均余命も長くなり、医療技術の高度化が急速に進んでいることもあって、医療費が国家の財政を圧迫することが多くの国で問題になっています。
そのような背景から欧州でも2000年代に入り、少しずつ医療業界にも民間の力やビジネスの手法を取り入れることによって、財政赤字を少しでも減らす方向になってきました。ドイツでは10年ほど前から介護施設や老人ホームにおける民間投資に対する規制が緩和(営利目的でも投資可能になる)され、現在では国内外の資本が入って施設を経営するようになっています。
医療施設のチェーン化と聞くと、医療の現場が小売店のようになってしまうのではないか、と嫌悪感を抱く人も多くいるようです。しかし実際にチェーン化が始まると、民間投資による展開経営で多くの利点があることも周知されてきました。民間企業の強みは、組織構成を明確にし、バリューチェーンを高める手法に長けているところです。それまでは医療業界はビジネスを深く追及する風習がなかったため、場合によって極めて非効率的な組織運営をしていました。
このような民間投資は歯科にも波及し、欧州ではフィンランド、スペイン、英国、オランダなどの国で早い時期からチェーン化が進んできました。ドイツでも歯科医師のビジネス展開によるチェーン化はすでに広まりつつあるのですが、完全に営利目的の民間投資によるチェーン化の規制が緩和されたのは2015年と最近のこと。
現在のところ、ドイツ国内にあるチェーン歯科診療所の総数は600軒強で、全歯科医院数のなかでの割合はまだ2%前後。しかし英国では1つの会社で650軒もの歯科診療所を抱えているところもあり、英国全国の歯科医師のうち約25%がチェーン歯科医院に勤務しています。さらに北欧フィンランドでは歯科医師の3分の1以上がチェーン歯科医院所属ということで、いかに欧州の歯科医療市場に民間投資や会社化が浸透しているかがうかがえます。
ドイツでは歯科医師会をはじめ、多くの歯科医師からチェーン化に反対する声も上がっているため、チェーン化の進行はゆっくり。それでも現在の欧州歯科医療市場の趨勢(すうせい)を見ると、やはり時代の流れに抗うことは困難なようです。
いずれにしても医療とは健康のために存在しているわけですから、どのような方向に進むのであっても、第一に私たちの生活の利益になるような発展をしてほしいものです。
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