第32回 売上税法の改正
ドイツの売上税法が今年始めに改正されました。特に「クイックフィックス」(緊急措置)と称される諸規定の変更に注意が必要です。今回は 欧州連合(EU)域内への納品に適用される新規定について重要項目をまとめました。
1)EU域内での納品
ドイツからEU他国への納品には、原則的に売上税(付加価値税)が免除されますが、免除のために必要な条件が今年から厳しくなりました。売上税法第6条aに定められた新規定は、以下の通りです。
•商品の仕向地がドイツ国境を越えた場所にある
•商品受領者が、事業者としてドイツ以外のEU加盟国で売上税申告に必要な登録を済ませている
•商品購入については、EU他国の受領者に売上税申告義務がある
以上に加え、さらに以下の条件が課せられます。
•商品受領者はその提供者(サプライヤー)に対し、取引開始時点から有効な売上税ID番号(USt-Id-Nr.)を使用する
•サプライヤーが税務署に対し、これに相応する申告書(Zusammenfassende Meldungen=ZM、「ECセールスリスト」とも)を提出する
現時点で有効な売上税ID番号を使うこと、そして正確で内容の明確な申告書の提出が、EU域内取引で売上税免除を受けるために何よりも重要です。従って、売上税ID番号は、EU内の全取引で常に使用し、また使ったことを文書で証明できなければなりません。さらに、税務当局など公式機関のウェブサイトで、定期的にこの番号を確認することも重要です。また、先に述べた申告書の内容と前段階税額控除(Umsatzsteuervoranmeldung)の申告内容を比較し、誤った、または不完全な申告がされていないことを随時確認します。
2)連鎖取引(Reihengeschäfte)
いわゆる連鎖取引では、何社もの事業者が1つの商品を仕入転売する形で商流に関与しています。ただ、物流としては最初の事業者(たとえば製造者)から最終受領者に直送されるケースが少なくありません。この場合には、商流のうち1回の取引だけが、EU域外の第三国への輸出、またはEU他国への納品として売上税免除措置を受けることができます。その内容は売上税法第3条6aに明記されています。
•取引の最初に関与した事業者(サプライヤー)が輸送(発送委託)を手配した場合、この最初の取引だけが非課税になる。サプライヤーが商品を自分で運んだか、自己負担で第三者に輸送を委
託したかは問われない •取引の最後に関与した事業者(受領者)が輸送費用を負担した場合には、この最終取引だけが非課税扱いである
•取り引きの中間事業者が輸送を手配する場合には、原則的にこの中間事業者を譲受人とする部分の取引だけが非課税の扱いである。例外的に、中間事業者が商品の仕出国(出発国)の売上税
ID番号を取得し、これをサプライヤーに伝えていれば、中間事業者を譲渡人とする取引が非課税になる
3)委託在庫(Konsignationslager)
さらに委託在庫に関する項目も改正されています。サプライヤーがEU他国の顧客近くに社外倉庫を設け、ここに商品を越境輸送、保管した後、商品を販売するケースです。従来は委託在庫について売上税
法上の具体的な規定がありませんでしたが、改正後は第6条bにより、規定が簡素化、明確化されました。
新規定では、委託在庫を前提とする越境輸送には、ひとまず売上税に関する諸規定は適用されず、委託在庫から受領者に商品を販売して初めて「EU域内での納品」として売上税申告の対象になります。この新規定の大きなメリットは、サプライヤーが売上税の申告をするために、仕向け国(倉庫がある国)の税務署に登録する必要がなくなることです。ただ、以下の条件を満たすことが条件になります。
•受領者への納品が現地倉庫に保管した後になることが、越境輸送の時点で契約上明らかである
•サプライヤーは仕向け国に所在地を持たない
•商品受領者が仕向け国で有効な売上税ID番号を持っている
•越境輸送の時点で、顧客(商品受領者)の身元、および売上税ID番号が明確である
•サプライヤーは越境輸送の内容を当該機関に届け出、受領者の売上税ID番号を別途ZMに記録する
この場合、商品到着から12カ月以内であれば、売上税法に触れることなく、特定の条件下に受領者を変更する、または商品を仕出国に送り返すことが可能です。
4)まとめ
売上税法改正後の規定を履行するためには、社内の業務プロセスと納品の流れを精査、調整することが必要になるでしょう。同時に、他分野の税法について把握しておかなければなりません。たとえば、小規模事業者(Kleinunternehmer)については、売上税免除の条件である売上高上限が2万2000ユーロに引き上げられており、 EU域内納品については証明文書の発行が義務付けられています。当社では、顧客企業のEU内商取引について、総合的なコンサルティングを提供いたします。
(税理士・クリスティーネ・フュッセル)
リンケ・トロイハント会計税理事務所
ジャパンデスク
担当:田中
www.rinke-japan.de
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