ジャパンダイジェスト

連邦軍とアフガン問題

12月3日、ドイツはアフガニスタンへの連邦軍派遣を1年間延長した。増派はせず、兵力はこれまで通り4500人にとどめるとしたが、米国をはじめとする各国からの増派要請は非常に強い。一方、アフガニスタンからの早期撤退を求める国民の声は、日を追うごとに強まっている。今回はアフガン問題を中心に、ドイツの連邦軍の役割と任務についてみていこう。

連邦軍とNATO

連邦軍(→用語解説)は1955年、冷戦下の共同防衛組織として発足した北大西洋条約機構(NATO)に、当時の西ドイツが加盟することに伴い設立された。連邦軍の役割はこのため、ドイツと加盟国およびその国民を守ることとなっている。

冷戦が終結すると、NATOはボスニア・ヘルツェゴビナの内戦に介入(1992年~)するなど、域外地域の紛争防止に、新たな役割を見出すようになった。ドイツもこれに合わせて変化を求められたが、域外任務であることや軍事介入であることを理由に加盟国と足並みをそろえず、非難を受けた時期もあった。しかし94年7月に連邦憲法裁判所が域外派兵を承認してからは、コソボ紛争に介入(99年~)するなど、国外任務に正式に参加している。

2001年9月11日に起きた米同時多発テロ以来、情勢はさらに変化し、国際テロとの戦いがNATOの主要任務となった。連邦軍もNATO加盟国として、また欧州連合(EU)、国連の加盟国として、「防衛」「支援」「調停」「戦闘」のあらゆる面から、国や地域を越えた任務にあたっている。

アフガン派兵

国外任務に就いている連邦軍の兵士数は現在、約7600人(→枠外記事参照)。その中心となる任務が、今回派遣延長が決まったアフガニスタンにおける国際治安支援部隊(ISAF)での活動だ。アフガニスタンでは国際テロ組織アルカイダをかくまっていた武装勢力タリバンが攻撃を続けており、ISAFは当地の治安維持と復興、民主化を目指すアフガン政府と民生の支援、そして最終的にはアフガン全土で当地の軍、警察に治安維持の権限を移譲することを目指し、軍と警察の訓練にあたっている。

ドイツ連邦軍は北部クンドゥズを中心に駐留し、米国(10月現在3万4800人)、英国(同9000人)に次ぐ兵士4500人を派遣している。北部は比較的治安が良いとされていたが、最近はタリバンによる攻撃が全土で激化、ISAFの任務で死亡したドイツ兵は36人に上るなど、大きな被害を受けている。また9月にはISAFの燃料輸送車がタリバンに強奪され、連邦軍が空爆を要請、民間人30人を含む約100人が犠牲となる事態も招いてしまった。平和構築に向けた活動であるはずが、その代償はあまりにも大きく、派兵に反対する世論はここ最近、とみに強まっている。

世界平和へ

それでも連邦政府がアフガン派兵の延長を決めたのは、ドイツ国民を守るため。とはいえ、終わりのない戦争を続けても意味がない。米国のオバマ大統領は12月1日、新アフガニスタン戦略として2011年7月にも軍撤退を開始できるよう、ISAFと米単独部隊で計3万人を増派すると発表、各国に理解と協力を求めた。NATOはこれに対し、7000人を増派すると応えている。

増派については、加盟28カ国中25カ国が同調している中、ドイツは一線を画し、慎重な立場を取っている。ヴェスターヴェレ外相(自由民主党= FDP)は、「増派より戦略について話し合う方が先」と訴えているが、増派を求める加盟国からの圧力は強まる一方だ。来年1月末には、アフガン国際会議が開催される。平和を目指した増派が、兵士や市民などの死者を増やすことになるというジレンマの中、ドイツはどのような立場を取っていくのだろうか。米国やNATOによる増派の決定、そしてドイツが下す決定がアフガニスタンの平和につながるよう、願うばかりだ。

ドイツ連邦軍の在外兵力(かっこ内は女性兵士数)

アフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)
4.410人* (170人)
NATOが指揮。2001年~。ISAFにはNATO非加盟国も参加しており、総兵力は世界44カ国から約8万人。(*兵力は変動的)

国連アフガニスタン支援ミッション
1人(-)
国連が2002年3月に設置。アフガニスタンにおける復興促進を目的とする。

コソボ国際安全保障部隊(KFOR)
2020人(140人)
NATOによる部隊。1998年~。コソボ紛争後、コソボ自治州(当時)からのユーゴ軍撤退と、治安維持にあたる。連邦軍は99年6月から任務に就いている。コソボは2008年2月、独立を宣言した。

ボスニア・ヘルツェゴビナにおける欧州連合部隊(EUFOR)
120人(5人)
EUが指揮。2004年12月~。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後、停戦の監視を行っていたNATO軍に代わる部隊。当地の治安維持にあたる。

国連スーダン派遣団(UNMIS)
34人(-)
2005年3月から国連が派遣。20年以上続いたスーダン南部での内戦後の、平和維持活動にあたる。ドイツは同年4月に連邦軍派遣を決めた。

国連レバノン暫定軍(UNIFIL)
260人(30人)
国連による部隊。1978年3月~。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとイスラエルの交戦を防ぐ。ドイツは2006年9月、連邦軍派遣を決定。連邦軍はレバノン沖で、武器密輸などの監視などにあたっている。ISAFとともに今回、任務期間が半年延長された。

国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)
7人(-)
スーダン西部のダルフール地方における国連の平和維持支援活動。2007年7月~。ドイツは同年11月、連邦軍の派遣を決定した。

アタランタ作戦(Operation ATALANTA)
240人(15人)
EUが主導するソマリア沖の海賊対策。2008年~。海賊行為を防ぎ、ソマリア沖を航海する船舶を保護するのが任務。連邦軍は同年12月から就任。

アフリカの角における不朽の自由作戦(OEF)
260人(20人)
米同時多発テロを受け開始された対テロ戦争で、「不朽の自由作戦」の1つ。2001年~。ドイツは02年2月から派兵。地形から「アフリカの角」と呼ばれているソマリア沿岸において、武器密輸などの海上監視活動にあたっている。今回ISAFと同様、任務の1年延長が決まった。

コンゴにおけるEU治安分野改革支援ミッション(EUSEC)
3人(-)
EUが指揮。紛争が続くコンゴ民主共和国(旧ザイール)における復興と治安維持にあたる。2005年6月~。06年7月には同国で1960年の独立以来初の大統領選挙と議会選挙が行われた。

アクティブ・エンデバー作戦(Operation Active Endeavour)
200人(-)
NATOによる対テロ戦争の1つ。2001年10月~。ドイツ海軍も地中海での監視にあたっている。

医療・衛生部隊(STRATAIRMEDEVAC)
41人(-)
負傷したドイツ兵などの治療にあたる衛生部の任務。

Quelle: Bundeswehr 12月2日現在

用語解説

連邦軍
Bundeswehr

09年10月現在の総兵力は約25万3000人。陸軍(Heer、10万2756人)、空軍(Luftwaffe、4万6370人)、海軍(Marine、1万8077人)、軍総監部(Streitkräftebasis、 5万6389人)、軍衛生本部(Zentrale Sanitätsdienst、 1万9201人)からなる。2001年からは衛生本部以外でも女性の参加が認められ、全部署で任務可能となった。女性兵士が占める割合は数は年々増加しており、現在は8.6%。

<参考文献>
■ ドイツ連邦軍(Bundeswehr)
■ 国防省(Bundesministerium der Verteidigung)
■ 北大西洋条約機構(NATO)
■ ヴェルト紙“ Westerwelle widersetzt sich dem Druck der Nato-Partner”(05.12.09) ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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