ジャパンダイジェスト

断食期間はビールを飲もう!

ドイツに春夏秋冬に続く第5の季節がやってきました。太陽が顔を出す時間が少しずつ増え、春の気配を感じられるようになったとはいえ、まだまだ寒さ厳しい時期です。中世の頃、4月の復活祭に先立つ2週間はキリスト教の断食期間でした。暖房などない石造りの冷たい修道院での断食は、まさに苦行だったでしょうね。

それでも救いはありました。古文書に「断食期間は固形物を口にしてはいけないが、液体を摂取することは断食に違反しない」という一文があるのです。そこでトンチを働かせた修道士、「パンが駄目ならビールを飲んじゃおう」なんて、ほくそ笑んだか否か。従来からあったボックビールのレシピを元に、麦のエキス分を高めたドッペル(2倍)ボックビールを造りました。

麦の栄養がギュッと濃縮されたドッペルボックビールは、ビタミンやミネラルが豊富で栄養満点。まさに「液体のパン」です。アルコール度数は6.5〜8.0%。強いアルコールは石の壁で凍えた体を温めてくれました。濃厚な麦芽風味と甘み、フルーティな香りに修道士たちは酔いしれたことでしょう。このビールは、辛い断食期間を乗り越えるための活力の源でした。

エーデルバッハ修道院の寝房
エーデルバッハ修道院の寝房。
夏でもひんやりしている

とはいえ、すきっ腹で強いビールを飲んだら、酔っ払って修行にならないのでは?

そこで調べたところ、古文書に泥酔した修道士に対する罰についての記録がありました。①泥酔の習慣を持っている司教は免職する、②ヘドを吐くほど飲んだ修道士には30日の苦行を課す、などなど。なお、普段から酔って修行を怠る堕落した修道士も多かったようで、罰は断食期間に限ったものでありませんでした。液体のパンは、適量摂取を守らないと大変なことになりますね。

修道士の栄養源だったドッペルボックは、1780年から市民にも販売されるようになりました。ミュンヘンの聖パウロ修道院(パウラナー)がこのビールを「サルバトール(救世主)」と名付けて販売したところ、たちまち人気に火が付き、現在では多くの醸造所が売り出しています。各社、サルバトール(Salvator)に倣って名付けていますから、スーパーでドッペルボックを見つけるには名前の最後が「〜ator」のものを選べば、まず間違いないでしょう。レストランでは、シュタルクビア(Starkbier)と呼ばれることが多いようです。

今の時期、ミュンヘンのレストランではドッペルボックのお祭り「Starkbierfest」が開催されます。断食の趣旨からは外れていますが、オクトーバーフェストさながらに、ビールを飲みながら楽しく騒ごうというお祭りです。外の空気はまだ冷たいですが、テントの中はビールが飛び交い、歌と踊りで熱気の渦に包まれます。

ミュンヘンの諺に、こんなものがあります。「サルバトール(救世主)の前に座れば、悩みなど吹き飛ぶ」。さあ、みなさんも美味しい(救世主)を手に取って、残り少なくなった冬を楽しく乗り切りましょう!

 
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