ドイツで“小学校の入学式”といえば、多くのドイツ人は“シュール・テューテ(Schultüte)”を連想するのではないでしょうか。シュール・テューテとは大きなとんがり帽のような円錐形の袋のことで、中にはお菓子や文房具、靴下などが入っています。子どもの身長の半分ほどある大きな袋ですが、それを抱える子どもは「今日から小学生!」と誇らしげ。初登校の日にだけ持つことができる新1 年生の特権なのです。
シュール・テューテは入学式の季節になると、デパートなどで市販品を見かけますが、母親の手作りが伝統的慣習。私の場合は、娘が通っていた現地の幼稚園で作りました。卒園直前に「シュール・テューテの作り方を教えるから幼稚園に来てください」という手紙を受け取り、参加。指導を受けながら1時間ほどで完成しました。作りながら「我が子もいよいよ小学生になるんだなぁ」と特別な気持ちになったものです。
イラスト: © Maki Shimizu
初登校以降は、“トルニスター(Tornister)”というランドセルを背負うことになります。これは子どもの背中を覆ってしまうほど大きく、しかも重いので、購入の際はデザインだけで選ばず、子どもの体型に合うかどうかをよく吟味しないといけません。
さて、我が子が通った現地校の入学式は、私が想像していたような“格式ばった入学式”とは違いました。新1 年生は約70 人。学校に隣接する体育館には木製の長椅子が5 列ほど並べてあり、子どもも親も親戚も入り混じって立ったり座ったり。集合時間になると、ノーネクタイというラフな服装の白髪の校長先生が、「こんにちは、みんな。これから楽しい学校生活が始まるよ!」と1分間スピーチ。それから新2 年生が歌やダンスを披露し、ちょっとしたパーティー気分に。「♪小学校は毎日がこんなに楽しい♪」という校長先生が作詞作曲した歌を通して、「学校は楽しいところ」という強いメッセージが伝わってきました。この日は私も正装までして朝から緊張していましたが、学校のリラックスした暖かい雰囲気に触れて、明日からの学校生活をワクワクしながら待つ気持ちになった入学式でした。
ところで、ドイツの学校長は校長の職務以外にもクラス担任を受け持ったり、教科を教えたりしています。さらに全校生徒の名前を覚えているのか、自ら生徒に声を掛ける姿をよく見かけます。校長先生は生徒にとって身近な存在のようです。
その一方で、ドイツの教師の態度を疑問に思うこともあります。私が遭遇した最初の驚きは、教師が生徒よりも先に帰宅してしまうこと、そして担任の先生が頻繁に学校を休むことです。病欠で1週間、ときには3週間以上も学校に来ません。代行の先生がいれば問題ないのですが、なかなか見つからず、娘のクラスでは授業が成立せずに何日間も校庭でドッチボールだけをしていたことがありました。代行の先生がいても、同じ学習内容が継続されることは稀です。
ドイツの学校では、先生たちの机がズラリと並んだ、いわゆる“職員室”を見たことがありません。休憩室はありますが、朝の職員会議もなく、先生同士の連帯感があまりないようです。中高年教師が多く、若い先生が少ないのも気になるところ。統計によると教師の平均年齢は47歳。2人に1 人は50歳以上で、小学校教師の84%は女性、4割の教師がパートタイムで勤めているそうです。帰国した際、日本の小学校を訪問するたびに、生徒に対し、我が子のように接する日本人教師と、どこか“クール”なドイツ人教師との“温度差”を感じてしまうのです。
イラスト: © Maki Shimizu
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