これまで何度か取り上げたように、ドイツでは小学校卒業後の進路が3 つのタイプの学校に分かれています。子どもの運命を決めてしまうと言っては大げさかもしれませんが、まだ小学校4年生※と幼いうちにギムナジウムかレアールシューレ、ハウプトシューレかの大きな決断を迫られます。
特に最終学年に上がる直前、小学3年生にもなるとそれが急に現実味を帯びてきます。まずは学習内容の難易度がアップして宿題の量が増えてくる。国語(ドイツ語)はディクテーションや作文が中心となり、算数にも文章問題が出てきて日本とは違う不思議な九九の覚え方や解き方をする。勉強の遅れ気味な子どもには補修授業が行われ、成績評価も厳しくなる。さらに落第する子も出始める。
こうした学校生活の変化は、やはり家庭にも影響を及ぼします。家では子どもに勉強を強いる親が増えて、母親同士が道で顔を合わせると、成績と進路のことばかりが話題になります。
「〇〇ちゃんは算数のテストがほぼ満点だったのに成績は2だった(ドイツでは1の評価が一番良い)」「うちの子は国語と算数が3だけど、ギムナジウムに行けるのかしら」
周囲で様々な情報が飛び交い、保護者会もピリピリムード。進路が決まる小学4 年生の前期まで、熱心な親ほど不安な日々を過ごすことになります。
子どもたちの方は「サッカー選手になる」「魔法使いになりたい」など、8〜9歳らしい憧れや夢を持つ子と、「お父さんみたいに医学部を卒業して町の主治医になりたい」と、職業に対してはっきりしたビジョンを持つ子がいました。しかし大半の子どもの本音は、「友達と同じ学校に行きたい」だったようです。小学校では一度もクラス替えがないので、子どもたちはお互いをよく知り、仲も良く、私の娘も「なぜみんなが同じ学校に行けないの?」と不満気でした。
イラスト: © Maki Shimizu
進路の振り分けによる子どもたちの実際の様子を少し見てみましょう。
「私は大学で法学を勉強したいから絶対にギムナジウムに行くの!」と、娘の友達マリアは、小学3年生になると宣言し、猛烈に勉強を始めました。クラスメイトから“がり勉”と白い目で見られていましたが、当の本人は何を言われてもまったく気にしない様子で、ひたすら成績アップを目指して目標を達成しました。
もう1人、エレナも「ギムナジウムに行く」と早くから宣言した女の子でしたが、実際には成績上の問題でハウプトシューレに行きました。この子はその後ハウプトシューレを卒業してレアールシューレに編入した今でも、ギムナジウムへの夢を捨てていません。
さらにもう1人、ヘレンは教師からギムナジウムへの進学を勧められましたが、両親がハウプトシューレ出身だったので「自分の子どもがギムナジウムなんかに行ったら面倒をみきれない」と断わり、レアールシューレに進学しました。彼女はそこでも成績が良く、学校が大好きなようです。
最後はバネッサです。お姉さんも通うギムナジウムに入学したものの、小学校の友達がみんなレアールシューレに行ってしまい、孤独感に悩んでいました。どうしてもギムナジウムへ行かせたい母親は、毎朝バネッサの腕を引っ張って登校させましたが不登校になり、1年後には隣町の寄宿学校に転校しました。
ドイツで子育てをしている皆さんは、日本とは異なるこの独特の教育システムに対してどのような考えや体験をお持ちでしょうか。みなさんのご意見をお待ちしています。
※ 州によっては、6年制の小学校もあります。同コラムNr.6参照。
イラスト: © Maki Shimizu
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