ジャパンダイジェスト

Nr. 13 ドイツでは教科書もリサイクル

日本で4月といえば、新学期を迎えるスタートの季節です。ドイツでは夏休みの後に新学期が始まるので、4月が普通の日々として過ぎていくことに私は少し物足りなさを感じていたりします。ところでドイツの新学期といえば、毎年やるべき親の仕事がありますが、それは何だと思いますか? 日本であれば、新しい教科書や持ち物に子どもの名前を書くことかもしれませんね。

答えは、『教科書に透明のビニールシートを被せること』。ドイツでは基本的に教科書はリサイクルするものだからです。学校で教科書を受け取ったら、文房具屋でビニールシートを購入し、表紙にカバーを張って教科書を保護します。次の年に教科書を受け取る生徒たちが気持ち良く使えるように、というわけです。語学教材やワークブックのような書き込み式副教材などは各自で購入しますが、教科書に関しては全学年で再利用されます。

教科書に透明のビニールシート
イラスト: © Maki Shimizu

娘がドイツの小学校に入学して、使い古された教科書をたくさん持ち帰ってきたとき、新品を期待していた私は大きなショックを受けました。なぜ教科書をリサイクルするのか? 不思議に思いつつ教科書を観察してみると、ドイツの教科書は日本のものより厚みがあります。まるで1冊の大型本のよう。つまり1冊当たりの価格が高いのです。高額な教科書を毎年数冊も新規購入するとなると、親にとっては経済的負担となります。だからといって全員に無償配布するのは、国にとってもコストが掛かり過ぎ。そこで、娘の学校では学期末にすべての教科書を回収し、新年度にはその教科書をまた次の学年でも使用するのです。地域によっては教科書を各自で新規購入するか、リサイクル本を受け取るか、または学校のバザーなどで古書を買い求めるかを選ぶことができるそうです。さすがはエコの国ドイツ、教育分野でもその力を発揮しています。

しかし、これで良いのか? と思える出来事もありました。娘が5年生のときのことです。カリキュラムに新しい教科「政治」が加わり、楽しみにしていたところ、娘がもらった教科書は、表紙が擦り切れ、ボロボロの状態。あまりに古いその教科書の発行年月日を見ると、なんと10年前から読み継がれているものだったのです。まるでアンティークのような教科書でした。当然内容も古く、金額表示はユーロではなくドイツ・マルクのまま。ドイツ初の女性首相アンゲラ・メルケルの顔写真は学生に見えるくらい若いのです。

これではあまりにひどい。刻々と変動する政治の状況に、この教科書は全く対応できていません。「こんな教科書を使わせるなんてドイツの学校はダメだわ」と嘆いていたら、その2カ月後に新しい教科書が配られました。「古過ぎる」との苦情が出たので政治の先生が注文したのです。この先生、自分の気に入った教科書をいつまでも使い続けていたそうです。新品を手に入れて喜んだのは生徒たちでした。表紙には使用感がなく、ピカピカなので「教科書がまぶしい! 」と興奮していたほどです。

ところで、ドイツの教科書は分厚いので読みごたえのあるものになっています。特に政治や地理などは大人が読んでも面白いくらいです。日本では教科書を1年間ですべて消化するように授業が進んでいきますが、ドイツでは、教科によって、新学期なのに「それでは120ページを開けて下さい」といった使われ方をしています。大きな書店で販売されているので購入して読んでみると意外と楽しめるかもしれませんよ。

読みごたえのあるドイツの教科書
イラスト: © Maki Shimizu

 
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