ジャパンダイジェスト

友情が生んだメルツェンビール

まもなく、ビールの祭典「オクトーバーフェスト」が始まります。本場ミュンヘンの会場で飲まれるのはメルツェンビール。黄金色から赤褐色をした、麦芽由来のほのかな甘味と焦げ香が印象的なメルツェンビールは、オクトーバーフェストに欠かせない存在です。このビールは、2人の男の友情が造り出したものであることをご存知ですか?

時は19世紀初頭。ウィーンのシュヴェヒャート醸造所のアントン・ドレハーと、ミュンヘンのシュパーテン醸造所のガブリエル・ゼードルマイル2世が立役者です。2人は同じ師の下でビール修行に励む親友で、エールビールの醸造と蒸気機関の発明で活気付いていた英国に渡り、協力して醸造所から技術と酵母を盗み出したというエピソードまで残っているように、切磋琢磨し合う大切な仲間だったようです。やがてそれぞれの国に帰るとき、2人はこんな約束をします。「良いビールが完成したら、その技術を教え合おう」と。

当時、ミュンヘンではラガービールが造られていました。これは15世紀頃から始まった醸造法で、10~3月の寒い期間にビールを仕込み、温度変化の少ない山や地下に穴を掘って氷を詰めた室内にビールの樽を貯蔵する低温長期熟成ビールです。シーズン最後の3月に仕込まれるビールはメルツェン(3月)ビールと呼ばれ、腐敗を防ぐため、特に念入りに造られていました。この頃にはオクトーバーフェストですでにメルツェンビールが飲まれていましたが、現在のものとは異なる味でした。

ミュンヘン近郊で造られるメルツェンだけが、「オクトーバーフェストビール」を名乗ることができる
ミュンヘン近郊で造られるメルツェンだけが、
「オクトーバーフェストビール」を名乗ることができる

さて、ウィーンに戻ったアントンは独特な製麦方法を開発し、ウィーン麦芽を造り出します。そして、ガブリエル2世の協力の下、ミュンヘンの貯蔵技術でウィーン麦芽を用いた赤褐色で芳醇な香りのウィンナスタイル・ラガーを完成させました。このレシピをガブリエル2世がアントンから譲り受け、新しいメルツェンビールを醸造。それをオクトーバーフェストで売り出したところ、大変な評判となり、以降メルツェンビールにはウィーン麦芽が使われるようになったのです。

メルツェンビールはウィンナスタイル・ラガーより貯蔵期間が長いため、アルコール度数が高くなっていますが、レシピは同じ。そのためこの2つは、「兄弟ビール」と言われています。

2人が造ったビールとピルゼンのピルスナービールは、19世紀を代表する3大ラガービールと謳われますが、残念ながらウィンナスタイル・ラガーはオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊と共に姿を消してしまいます。しかし、完全にその灯火が消えてしまったわけではなく、今でもウィーンから遠く離れたメキシコで愛されています。

現在、オクトーバーフェストで提供されているメルツェンは「ビールと言えば黄金色!」という観光客の要望に合わせ、色が薄くなってきました。ビールは時代のニーズに合わせて変化しるものですが、2人の男の友情はビールの歴史に確かな足跡を残しました。

 
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