動画共有サイト「YouTube」を見ている時、次のような文章が表示される黒い画面に出くわしたことはないだろうか? 「Unfortunately, this video is not available in Germany because it may contain music for which GEMA has not granted the respective music rights.」YouTubeの動画に表示される“GEMA”とは何者で、どのような役割を担っているのだろうか?
GEMAとはどんな組織?
GEMA(Gesellschaft für musikalische Aufführungsund mechanische Vervielfältigungsrechte)はドイツの著作権管理団体である。GEMAは現在6万4000人のメンバーと、全世界で200万人以上の著作権保持者の著作権を管理している。
音楽の制作には、作曲、作詞、発売する出版社など、あらゆる人や組織が関わり、それぞれが著作権を保持している。各自が各々の持つ権利が侵害されていないかを監視し、使用された音楽の利用料を徴収することは非常に難しい。著作権管理団体とは、音楽の著作権を持つ作曲者、作詞者、音楽出版社から著作権の信託を受ける団体で、著作権保持者に代わり、音楽を利用したい人に対して利用を許諾し、利用料を徴収する。そして、その利用料から一部の手数料を除いた金額を著作権保持者に分配する。また、音楽が無断で利用されていないかを監視し、その利用が悪質な場合に法的責任を追及することも、この団体の業務である。
ドイツの著作権に対する意識
ドイツでは、1901年に„Gesetz betr. das Urheberrecht an Schrif twerken, Abbildungen, musikalischen Kompositionen und dramatischen Werken”(文学作品、 画像、音楽及び劇に関する著作権法)が生まれ、1903年にはドイツ作曲家協同組合と演劇出演のための研究所が設立された。法律はその後、幾度かの変遷を経て1965年に施行された現在の„Gesetz über Urheberrecht und verwandte Schutzrechte”(著作権および著作隣接権に関する法律)へと続いている。現在のGEMAは、第2次世界大戦後の1947年に設立された。
日本では1939年、「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)が施行され、日本音楽著作権協会(JASRAC)の前身である大日本音楽著作権協会が設立された。日本と比べると、ドイツの著作権保護に対する対応の早さに驚かされるが、隣国フランスではすでに1851年に同様の組織が設立されていた。欧州全体で著作権保護の意識が芽生えるのが早かったということだろう。
どうしてYouTubeで映像が流れないのか
2009年3月に、ドイツでのサービスを開始した2007年11月以来の契約が切れ、GEMAとYouTubeが契約更新の条件で揉めて以来、ドイツではメジャーレーベル(大きなレコード会社)のミュージックビデオや、その音楽をBGMに使用している映像がYouTubeで流れなくなった。YouTubeによると、2009年までと同じ条件、広告収益の中から一定の割合を支払う変動方式を提案したが、GEMAは映像の配信ごとに決まった金額を支払う定額方式を求めている。GEMAがYouTube側に請求している額は、1ストリーミング当たり12セントという報道もある。その金額が高すぎるとして、YouTube側が支払いを拒否しているのだ。結果、動画のブロックはYouTube側でなされている。GEMAが利用料の徴収強化に乗り出す理由は、既存のメディアである音楽CDなどから利益を得ることは、もはや難しいと考えているからだろう。
GEMAに強力なライバル出現?
GEMAに対抗するライバルは意外なところから現れた。近頃急進している政党「海賊党(Piratenpartei)」である。海賊党は、デジタル技術の進歩によって著作物のコピーは不可避な情況であるとし、現在の著作法の改訂を訴えている。5月29日に海賊党は、GEMAがUSBメモリースティックとメモリーカード(SDカード等)への利用料の徴収を強化すると発表した。これにより、著作物のコピーに対する権利のハードルは下がることになるが、同時に私的コピーに対する料金が一律にはね上がったことを意味する。
著作権管理がデジタル技術の進歩によって覆される情況はどの国でも同じである。20世紀初頭に整備され、現在もその流れを汲んでいる法律を古いと考えるのか、技術との折 り合いをつけて著作権を活かす方法を探っていくのか、現代社会は難しい判断を迫られている。
ドイツでは閲覧不可の動画が日本では観られる理由
それは、YouTubeが日本の著作権管理団体に著作料を払っているからである。日本の著作権管理団体、日本音楽著作権協会(JASRAC)とYouTubeは、2008年10月に楽曲利用許諾契約を結んでいる。これは包括契約という方式で、YouTubeは利用された全楽曲をリクエスト回数などと併せて報告し、サイト収入に基づいて算定された金額をJASRACに支払うのである。
ところが2009年2月、この方式に待ったがかかった。日本の公正取引委員会は、包括契約が独占禁止法違反に当たるとして排除措置命令を出したのだ。包括契約方式はJASRACとほかの放送事業者の間でも結ばれているが、JASRAC以外の著作権管理団体の楽曲を利用する時、放送事業者は別途費用をその団体に支払わなければならない。そのため、JASRACによる包括契約がほかの著作権管理団体の参入を阻害しているとの判断されたのだ。JASRACはこの排除措置命令を不服として審判を請求した。その審決が出たのはつい最近である。2012年6月12日、公正取引委員会は審査段階の判断を変更し、排除措置命令を取り消す審決を出した。
ドイツ語の場合は、"Leider ist dieses Video in Deutschland nicht verfügbar, da die GEMA die Verlagsrechte nicht eingeräumt hat."(GEMA が各々の著作権を承諾していない音楽が含まれるようなので、残念ながらこのビデオはドイツではご覧いただけません)。
著作権 Das Urheberrecht
著作権は、特許権や商標権などの産業財産権とともに、知的財産権と呼ばれる。産業財産権は産業経済の発展を目的としているが、著作権は文化の発展のために、音楽、小説、コンピューター・プログラムなどの著作物を保護する。創作物に対する著作権のほか、演奏者、歌手、レコード会社、放送業者に対する著作隣接権がある。ドイツ語圏の著作権管理団体にはオーストリアのAKMやスイスのSUISAがある。<参考URL>
■ GEMA:www.gema.de
■ JASRAC:www.jasrac.or.jp
■ SPIEGEL “YouTube sperrt Musikvideos in Deutschland” (31.03.2009)
■ Die Welt “Piraten kritisieren Gema für Abgabenerhöhung bei Speichermedien”(29.05.12)
■ Neue Musikzeitung “Wenn bei uns der Groschen fällt... - ur Geschichte und aktuellen Situation der Musikurheber Verwer tungsgesel lschaf t GEMA 1999”(6/99 - 48.Jahrgang)
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