ジャパンダイジェスト

アウトバーンでどこまでも。

“全線無料”“速度無制限”で世界的に有名なドイツのアウトバーン。“高速道路の無料化”を掲げ、自民党から民主党へ政権が交代した日本とは逆に、ドイツではアウトバーンの有料化について、歴代の政権で何度も議題に挙がってきた。その議論の背景や、実際にアウトバーンで国境を超える際の注意点について見ていきたい。

全線無料

実は、アウトバーンはすべての車に対して“全線無料”ではない。EUによるヨーロッパの経済統合によって、東西交通の要に位置するドイツでは、各国からの、特に輸送関連の交通量が増大した。そのため1995年より12トン以上の大型トラックは有料となっている。  

次は乗用車である。今年5月31日、メルケル首相はラムザウアー交通相が提案した乗用車へのアウトバーン通行料導入に対し、「現任期中には実施しない」と明言した。その理由として考えられるのは、アウトバーンは無料を前提として設計されていることから料金徴収所の設置が困難であること、料金徴収所の設置や維持費などを考慮すると大きな収入増が見込めないこと、そしてドイツの基幹産業の1つである自動車業界への配慮もあるだろう。  

実際に、アウトバーンに制限速度を設けるべきという提案が、主に社会民主党(SPD)より提出された際、自動車業界はこれに反対してきた。ドイツの各自動車会社で作られた試作車は、アウトバーンで走行実験を行う。アウトバーンを走っていて、黒いフィルムが一面に貼られた車が一番左の車線を猛スピードで走り抜けるのを見たら、それは試作車だと思って良い。このような走行実験を経た後に生産される車が、世界各国で強いブランド力を持つということは、皆さんも日本のマーケットで実感していることだろう。アウトバーンは、ドイツ自動車産業のブランド力の1つなのだ。

速度無制限

“速度無制限”と言われているが、アウトバーンにも速度制限区間がある。日本の高速道路では、かなりのスピードオーバーでなければ違反切符は切られないが、ドイツでは時速1~5キロのスピードオーバーでも自動速度違反取締装置が作動し、罰金を支払わされる。また、走行車線(右側)と追い越し車線の走行が厳密で、走行車線での追い越しは禁止されている。また、追い越しを済ませた車はすぐに走行車線に戻らなければならない。法の遵守に厳密なドイツの国民性を表している。

アウトバーンで国境越え

メルケル首相の判断により、乗用車を利用する人々は当面“全線無料”を享受できそうだ。陸続きのヨーロッパを走る醍醐味は、何と言っても車で国境を越えることだろう。その際気を付けなければいけないのは、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、デンマークを除くドイツ近隣諸国へのドライブ。高速道路が全線無料ではないからだ。  スイス、オーストリア、チェコではビニエットと呼ばれる通行料金の支払いを示したステッカーシールをフロントガラスに貼る。ビニエットは国境近くのサービスエリアやガソリンスタンドで購入できる。  

フランスやイタリアの高速道路では有料の区間が多く、国境を超えると料金所が現れる。私の経験では、イタリアの料金所はクレジットカード払いの無人タイプのものが多く、その上カードの認識率が悪い。クレジットカード会社の異なるカードを2枚以上携帯することをお勧めする。また、国によって制限速度や法規制が異なる点にも気を付けたい。  

8月に入り、高速道路を利用してドイツ国外へ旅行に出掛ける方も多いだろう。安全運転で楽しい旅を過ごしていただきたい。

ビニエットの値段
国名 乗用車(3.5tまで) 注記
スイス 1年間有効:40フラン
(33ユーロ前後)
一部のトンネルで別途追加料金が必要
オーストリア 10日間有効:8ユーロ ほかに1年間、2カ月間のビニエットもあり。
一部のトンネルや橋では別途追加料金が必要
チェコ 10日間有効:310コルナ
(12ユーロ前後)
ほかに1年間、1カ月間のビニエットもあり
スロヴェニア 1週間有効:15ユーロ ほかに1年間、1カ月間のビニエットもあり

高速料金
国名 乗用車(3.5tまで) 注記
フランス 約9ユーロ / 100km トンネルは別料金
イタリア 約5.50ユーロ / 100km
クロアチア 約40クーナ / 100km(5.30ユーロ前後)
ポーランド A1線: 3.50~17.60ズウォティ(0.80~4.20ユーロ前後)
A2線: 13ズウォティ / セクション(3.10ユーロ前後)
A4線: 8ズウォティ / セクション(1.90ユーロ前後)
左記の3線のみ有料

※オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの高速道路は無料。デンマークでは海底トンネルを除く高速道路は無料。
※ユーロの換算レートは2012年7月のものです。

ナンバープレートの見方

ヨーロッパではナンバープレート左側の青い部分に国や地域を表すアルファベットが掲載されている。それぞれの国は下記の通り。

ナンバープレート
珍しい黒いナンバープレートは リヒテンシュタインのもの。
 

ドイツのナンバープレートで、国を示す"D"の右隣に掲載されている1~3文字のアルファベットは、都市名を表している。代表的な都市名は下記の通り。

A アウグスブルク H ハノーファー M ミュンヘン R レーゲンスブルク
B ベルリン HB ブレーメン MD マクデブルク S シュトゥットガルト
D デュッセルドルフ HH ハンブルク MS ミュンスター SB ザールブリュッケン
DD ドレスデン HL リューベック MZ マインツ SN シュヴェリーン
E エッセン K ケルン N ニュルンベルク W ヴッパータール
EF エアフルト KI キール P ポツダム WI ヴィースバーデン
F フランクフルト L ライプツィヒ    
用語解説

速度制限 Die Geschwindigkeitsbeschränkung

“速度無制限”と言われているが、インターチェンジの合流地点や大都市近郊では速度制限区間が設けられていて、速度無制限区間は路線全体の約半分である。速度制限区間は増加傾向にあり、2008年にはブレーメン市が時速120キロの制限速度を導入した。また、条件によるが、トレーラーを牽引した乗用車は時速80キロ、多くのバスは時速100キロ、大型トラックは時速80キロの速度制限がある。

<参考URL>
■ Die Welt ”Pkw-Maut: Merkel erteilt zusätzlicher Abgabe klare Absage”(31.05.2012) “Warum Deutschland freie Autobahnen braucht” (02.11.2007)
http://autohaus.de ”Autoindustrie geschlossen gegen Tempolimit” (14.03.2007)
http://www.wikipedia.de

藤田さおり(ふじた・さおり) 法政大学経営学部経営学科卒業。ニュルンベルク在住。スイスの日本人向け会報誌にて、PCコラムを執筆中。日本とドイツの文化の橋渡し役を夢見て邁進中ですが、目下の目標は、ドイツの乳製品でお腹を壊さないようになること。
 
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