ジャパンダイジェスト

Nr. 32 ドイツの不登校問題への対応

今回も引き続きドイツの不登校問題について見ていきましょう。「ドイツに不登校児はいない」と、私がドイツに来た頃、そんな言葉を聞いたことがありました。しかし、私の周囲を見渡すだけでも数人の子どもたちが学校に行けずに悩み、親子で葛藤の日々を送っています。学校に行けない子どもたちは、どこで、どのように学んでいるのか、今回はその点についてお話ししましょう。

まず、前回からのおさらいですが、ドイツでは、親には「就学させる義務」が定められ、理由なく子どもが不登校を続けると、親は法的に罰せられるケースがあります。そう聞くと、ちょっと怖いような感じもしますが、子どもの「教育を受ける権利」を守り、延いては育児放棄や虐待、児童労働などを予防することを目的とするものなので、子どもに学校が通えない理由がある場合は、また別の話です。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

 実際に、子どもが理由なく学校を休み続けると何が起こるのでしょうか。まず、学校が親に電話をかけて理由を聞きます。その際に、親の説明が不明確、または不適切だと判断されると、今度は学校が警察に連絡し、警官数名が家に来る騒動になってしまいます。数年前には、ドイツで「学校に行く必要などない!」と娘3人を登校させなかった父親が逮捕され、刑務所に入った“事件”もありました。明らかに父親が娘の学ぶ権利を不当に侵害しているケースです。

一方、心理的な理由から不登校になってしまった子どもたちに対しては、まずは医師など、専門家のアドバイスを受けさせるなど、早めのケアが重要になります。また、不登校児のための施設もあります。私の住む町にも青少年局(Jugendamt)管轄の同様の施設があり、私はこの施設を見学したことがありました。中には広い庭があり、2階建てでビリアードやダーツのようなゲーム類が置いてありました。ここは勉強する場所というよりも、心理的なケアに重点を置いた施設。学校に通えない子どもは、医師や心理療法士などの診断を得てこうした施設に通い、専門家の援助を受ける機会を得るのです。心の援助といっても、実際には毎日心理療法を受けているわけではないので、このような施設の存在意義は家にも学校にもいたくない子どもたちを保護する場所になっていました。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ところで、前回お話ししたヘレンがその後どうなったか、お話ししましょう。ヘレンはさらに学校を嫌がるようになり、学校に行ってもお姉さんのいる教室に泣きながら「家に帰りたいよぉ~」と駆け込むようになりました。担当医は「冬休みまで学校を休んだほうが良いでしょう」とアドバイスしました。こうしてヘレンは3カ月間ほど休学することになり、その間、彼女には家庭教師(Hauslehrer)がつきました。

ちなみに、ドイツにはいわゆる“学習塾”がないので、学校以外で勉強したい子どもはNachhilfeと呼ばれる補習を主に自宅で受けます。Nachhilfeは、たいてい知人や近所に住む大学生に依頼するようですが、この補習を受けている子どもが思ったより多いことが分かりました。例えば学校のテストで悪い点を取ってくると、親が慌ててNachhilfeの先生を探す。こうしたパターンが多いようです。私の周囲ではラテン語や数学の補習を受ける子を多く見ます。短期で集中的に教えてもらい、テストの結果が良ければ補習終了となるようです。

ヘレンの場合はこういった単発的な補習とは違い、全教科を自宅で教える家庭教師ということです。このように、医師の診断書があれば、学校も行政も不登校問題に対応してくれるのです。

 
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