このコラムで紹介した不登校児の話は、あくまで私の身近なところで起きた出来事ですが、ドイツの不登校問題の一面を知って驚かれた方も多いことでしょう。理由なく、長期にわたって学校に行かないという選択肢は受け入れられず、どのケースでも最終的には専門医による診断や指導を受けていることが分かりました。
イラスト: © Maki Shimizu
ところで、あるドイツ人の先輩ママが私にこんなアドバイスをくれたことがあります。
「できればキリスト教主義の学校を選んだ方がいいわよ。多くの教員が聖職者でもあるから、普通の公立学校よりも1人ひとりを親身にサポートしてくれるし、いじめのような問題が起きたとしても、きちんと対応してくれるの」
実は、偶然にも私の娘が通っていた小学校は、公立の学校であるにもかかわらず、キリスト教主義の学校でした。校内には木製の大きなキリストの磔刑。宗教の授業は必修で、校長先生が自ら、“愛”についてのテーマを4コマ漫画で分かりやすく子どもたちに教えていました。“公立”なのに、宗教色がはっきりと出た授業のあり方に、いかにもドイツ的だとその当時は思ったものです。キリスト教は、この国の人々の生活の中に強く根付いています。その先輩ママは、小学校卒業後もキリスト教主義の学校に進学するといいわよ、と勧めてくれたのです。
けれども私は、そのアドバイスに従いませんでした。なぜ、わざわざキリスト教にこだわるのか理解できず、無宗教の学校を選んだのです。しかし、ずっと後になってから、私は彼女のアドバイスの意味が分かりました。というのも、このコラムでも何度か書いたように、ドイツの教員は専門教科を教えることに対しての責任感はある一方、「自分は自分、人は人」と生徒の生活指導まで面倒を見るつもりはないという姿勢で、例えば授業が終われば「Feierabend!(退社時間)」と言って、生徒より先に帰宅する先生もいるのです。そんな姿を見ると、日本で教育を受けた私はドイツの先生に大いに失望してしまうのですが、結局はどんな学校であれ、教員自身が愛のある教育理念を持った教育者であれば、生徒と信頼関係を築くことができ、保護者からの支持も当然高くなります。先輩ママが言いたかったことは、宗教が優れているということではなく、例えパートタイム教員(意外と多い)だとしても、人を育てることを自分の使命とする教育者がキリスト教主義の学校には多くいるという、彼女の経験から得た情報を伝えてくれていたのでした。
イラスト: © Maki Shimizu
ところでドイツでは近年、私立学校(Privatschule)の人気が上昇しています。欧州では私立学校(小中等教育段階)に通う子どもの割合がオランダ75%、フランス21%、デンマークで11%、ドイツは8%というデータがあります(2009年)。ドイツでは私立学校の数が少ないのですが、1992年頃から設立ラッシュンが始まり、1年間におよそ100校の割合で増えているとも言われています。私立に通う子どもの数も増えていて、最も多いのはバイエルン州だそうです。親が授業料を負担するシュタイナーやモンテッソーリ・スクールほかに、教会が財政支援をする学校(Bischöfliche Schule)もあり、音楽やスポーツ教育重視の学校、不登校児や学習困難児などを受け入れる学校もあります。どの学校も独自の教育目標を持ち、子どもを支援する環境が整っているようです。子どもにとっても親にとっても、教育環境を選ぶ選択肢が増えるのは、とても望ましいことだと思います。
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