2013年は、リヒャルト・ワーグナー生誕200周年です。ワーグナーは「タンホイザー」や「ニーベルングの指輪」など、ドラマチックでスケールの大きなオペラを手掛けた作曲家で、熱心なファンが多いことで知られています。毎年5月22日の誕生日前後には、ドイツ国内のみならず、世界各地で記念の音楽会が開催されます。
当時のバイエルン王ルートヴィヒ2世もワーグナーに心酔し、彼の最大のパトロンであったことは有名です。ルートヴィヒ2世の援助がなければ、バイロイト祝祭劇場は完成を見ないどころか、ワーグナーは音楽活動を続けることができなかったでしょう。ワーグナーが創造する神話と英雄伝承の世界に身を焦がしたルートヴィヒ2世は、莫大な資金をワーグナーに与えると同時に、ノイシュヴァンシュタイン城などのロマンチックな建築物を次々に建て、夢の世界へ逃避しました。
「トリスタンとイゾルデ」「ニュルンベルクのマイスター
ジンガー」が初演されたバイエルン州立歌劇場
それがビールとどう関係しているかって? 夢の世界のために国庫を圧迫されたルートヴィヒ2世が行ったのは、それまでバイエルン王室が独占してきたヴァイツェンビールの醸造権を売り払うことでした。ビールの原材料を大麦麦芽、ホップ、水に限るとした「ビール純粋令」の公布以来、小麦を使うヴァイツェンは王立醸造所(ホフブロイハウス)で独占的に製造販売され、王室に莫大な利益をもたらしました。しかし、ルートヴィヒ2世の時代に流行は去り、もはや金を産む鶏ではなくなっていました。そこで彼は、ヴァイツェンの醸造権を手放すことにしたのです。
醸造権を購入したのは、王立醸造所のビール職人ゲオルク・シュナイダー1世でした。ヴァイツェンビールを専門とするシュナイダー・ヴァイセ醸造所のビールは、今ではミュンヘン市民一番のお気に入りです。市庁舎前広場(マリーエンプラッツ)に程近い直営店「ヴァイセスブロイハウス」は、建物の美しさもさることながら、世界で最も美味しいヴァイツェンを飲ませるビアホールとして連日賑わっています。現在の醸造主ゲオルク・シュナイダー6世は6代目。多くの小規模醸造所が大手ビールメーカーに吸収合併されていく中、家族経営を守り、伝統的なレシピと名前が代々受け継がれて、大衆に迎合しない本物のヴァイツェンを造り続けています。
主なラインナップは、造り方の異なるTap1~7と季節限定のビール。創業当時のままのレシピで造られるTap1は、フルーティーかつ、こっくりとした麦の旨味が凝縮された味わいで、ミュンヘンを訪れた際にはぜひ飲んでいただきたい1杯です。Tap6の「Aventinus(アヴェンティヌス)」は小麦を使ったドッペルボックで、アルコール度数は8.2%。イチジクやレーズン、ウイスキーを思わせる濃厚な風味は、一度飲んだら忘れられません。
ワーグナーがミュンヘンに滞在したのはわずか2年という短い期間でしたが、ミュンヘンはワーグナーの音楽活動に大きな影響を与え、ワーグナーもまた、ミュンヘンに大きな影響を与えたのです。
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