ジャパンダイジェスト

Nr. 36 ドイツの託児所事情

待機児童についてのお問い合わせがありましたので、今回はドイツの託児所事情について考えてみたいと思います。日本では、今年になってから認可保育園に入園が認められなかった親が集団で訴訟を起こすケースが目立ち始めました。小さい子どもはかわいいものの、仕事を持つお父さんやお母さんにとって、子どもを預ける場所がないのは死活問題。仕事と子育ての両立はなかなか難しく、それはここドイツでも同じことです。託児所不足は社会問題としてこの国でも、長く議論が繰り返されています。ドイツと言えば子育て支援が充実しているというイメージを持つ人もいるかもしれませんね。確かに妊娠から出産までの医療費が無料だったり、最長で3年間も育児休暇があったり、高額な子ども手当が支給されるなど、日本から見るとうらやましい環境が揃っている一方で、子どもを産んでいざ働こうと思ったら、預け先が見付からずに右往左往する人も、実は少なくないのです。

ドイツには、いろいろなタイプの育児施設があります。0歳児から3歳児までの保育園(Kinderkrippe)、教会や親などが主体となっているプレーグループ(Spielgruppe)、3歳児以上の幼稚園(Kindergarten)、ほかにも自宅を開放している保育ママ(Tagesmutter)など、地域によって名称も事情もさまざま。各施設の入園条件、申し込み方法、費用なども千差万別です。人気が集まるのは、やはり経済的な理由から公立保育園。入園を希望する場合、通常は登録制になりますが、入園許可が下りるのを長期間待たなければならないこともあります。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

私も娘を公立の幼稚園へ入れることを希望していましたが、面談をしてから登録申込書にサインし、「返事を待っていてください」と言われてから3カ月以上は待たされたでしょうか。結局、私自身のタイムリミットが過ぎても回答がもらえず、知り合いのドイツ人ママに困って相談。すると、「私に任せて!」とキリスト教会の幼稚園へ直行。こちらは3日後に「園長先生からOKもらったよ」と嬉しい知らせが来ました。人間関係の力というのでしょうか、ドイツではこの方法で何度かピンチを救われています。しかしながら、喜んだのも束の間、保育料は公立幼稚園より高いことが後で分かったのでした。

ところで、ドイツの保育施設は地域色豊かだと思います。例えば、旧東独地域は旧西独地域よりも子どもを預ける環境が整っていると言われています。かつての東独では、女性も重要な労働力であったため、しっかり働けるよう託児施設がたくさんありました。内容も充実していて、早朝から深夜までオープンしていたり、国が保育料を全面カバーしたり。「子どもは国の大切な人材」という政治的思想の下、国家主体で子どもを育てていたのです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

対して近年のドイツ(主に西側)では、託児所の需要が高まり、その必要性が議論されるわりに、なかなか数が増えません。少子化は支援しつつもキャリアママの支援が遅れ気味だったのは、今までこのコラムの中でも取り上げてきたように、“子育ては家庭の中で”を理想とする考えが根強いから。母親は(フルに)働かずに家にいることを良しとする価値観が少なからず残っているのです。“子育ての主体は国家でなく家庭にあり”とは、旧東独の考え方と真逆ですね。地域によって多様な子育て事情が見えてきます。次回は、気楽に利用できる保育ママ制度「Tagesmutter」について書きたいと思います。

 
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