ジャパンダイジェスト

Nr. 40 ぬいぐるみ依存と親離れ

夏休みが明け、新学期が始まりましたね。子どもが、「もう終わっちゃった」と夏の終わりを惜しむ一方で、親の立場としては「ようやく終わった」という思いで、子どもを学校に送り出します。ママさん同士の会話でも「やっと終わったね」と、お互いに労をねぎらってしまうのはドイツでも日本でも同じようで、思わず苦笑してしまいます。

6年生の娘を修学旅行に送り出すときも、似たような会話がありました。このときは、ドイツ最北のリゾート地ズュルト島に1週間行くことになっていました。出発の日、子どもの背丈の半分ほどもある大きなキャリーバッグに荷物をたくさん詰め込んで、大型バスの到着を待つ親子が、早朝の校門前にぞくぞくと集まっていました。眠いのもあり、寂しさもあり、神妙な面持ちの子どもを、親がときどき抱きしめては「楽しんでおいで」とやさしい口調で語りかけていました。いつもは大人びたように自信満々のドイツっ子たちが、このときばかりは妙に幼い子どものように見えて、私は興味津々に周囲を観察していました。

やがてバスが到着し、お父さんお母さんにキスをしてもらってから、子どもたちは順々に乗り込んで行きます。窓際に向かっていつまでも手を振る子どもたちと、それに答える親たち。どことなくしんみりとしたムードが漂う中、バスが動き出して子どもの姿が見えなくなった途端、親たちはお互いにウインクをして「Endlich Freiheit!(やっと解放されたね)」などと言いながら伸び伸びとした表情で帰って行きました。親としてその気持ちは理解できるものの、180度豹変した態度に圧倒され、呆気にとられたものです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ところでこの旅行の際、私の娘はいつも一緒に寝ている大きな犬のぬいぐるみ“ラブちゃん”を持って行きました。子どもが大切にしているぬいぐるみは、ただのぬいぐるみ以上の意味があることをご存じですか?

ぬいぐるみに限らず、タオルケットやひもの場合もあり、寝るときにそれがないと眠れない子もいますよね。これらはお母さんのイメージにつながる大切な存在。こうした愛着を寄せる「移行対象」を持つことは、子どもの心理的発達に必要な現象で、自立した大人になるために欠かせないプロセスの最中にいるというサインでもあるのです。ドイツの幼稚園での1泊お泊り会、小学校での2泊3日の小旅行、そしてギムナジウム前半での1週間の修学旅行と、どの旅行でもぬいぐるみの持参はOKでした。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

さて、娘は日本でも修学旅行を体験しています。京都と奈良に行くのも、新幹線に乗るのも初めて。ウキウキの彼女にとって気掛かりなことが1つ。それはラブちゃんを持っていけないことでした。持ち物リストの「不要物」の項目になんと「ぬいぐるみ」が指定されていたのです。「私のラブが不要物だなんて!!」と、娘の精神的ショックは大きなものでした。

ラブは彼女の大切なパートナー。親不在の旅行であれば、なおさら一緒にいたいところを、はっきりと「不要物」と明記してしまう扱いに、子どもの気持ちを十分に考慮しているのかと疑問が生じました。安全面などに配慮し、不要物の持参によってトラブルが起きることを心配する気持ちも分かるのですが、娘とぬいぐるみの愛着関係を知る私としては、ぬいぐるみ持参を禁止している日本の学校に、「ぜひ同伴許可を」と訴えたい気持ちもあります。

とは言え、娘のラブは身長1メートルもあるぬいぐるみなので、持参したらやっぱり迷惑だろうことは重々承知していますけどね……。

 
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