ドイツの超富裕層ランキングに毎年名を連ねる、カール・アルブレヒトとテオ・アルブレヒト。同じ名字であることから推測できるように、彼らは兄弟である。ドイツで一番有名な兄弟と言っても過言ではないこの2人は、ドイツ人の日常生活に欠かせない、あるビジネスと深く関係している。アルブレヒト兄弟のビジネスとは。そして彼らはそのビジネスをどのように成功させていったのだろうか。
ドイツのウルトラ富裕層
ドイツの最も裕福な100人のランキングが、マネージャー・マガツィン誌により発表された。1位は昨年に引き続きカール・アルブレヒト氏で、総資産額は178億ユーロ。2位はテオ・アルブレヒトJr.一家で同160億ユーロであった。カールと、テオ・アルブレヒトJr.の父であるテオ・アルブレヒトは兄弟で、ディスカウントスーパー・アルディ(ALDI)の創設者である。
米国の経済誌フォーブスの世界長者番付2013年度版では、カール・アルブレヒトが18位、テオ・アルブレヒトJr. 一家は31位にランクインしている。
アルディの設立
Huestraße 89, Essenに残る第1号店。
シェーネンベックの店が5年後、
こちらに移動した
アルブレヒト兄弟は、どのようにして資産を築いていったのだろうか。ドイツ人の98%が知っているという驚異的な認知度を誇るアルディは、今からちょうど100年前の1913年、当時パン屋の見習いであった兄弟の父が、木製カートでの配達サービスをビジネス登録したことに始まる。実際の店舗としては、1914年に兄弟の母がエッセン、シェーネンベック地区にオープンした食料品店が最初。ディスカウントという考え方は、アルディ兄弟が第2次世界大戦後に提案した。1948年には4支店がオープンし、1955年時点でノルトライン=ヴェストファーレン州に、アルブレヒトの名を冠したショップが100店舗存在していたという。
アルディの分割と世界進出
ルール地方をほぼ制圧した1960年、兄カールはドイツ南部を担当し、弟テオは北部を担当した。アルディは現在、ドイツだけで3700の店舗を構える。
海外への進出は、アルディ・ノルト(ALDI NORD)が、ベルギー、デンマーク、フランス、ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペインを、アルディ・ズュート(ALDI SÜD)が、オーストリア、米国、英国、アイルランド、オーストラリア、スイス、スロベニア、ハンガリーをカバーしている。現在、アルディ・ズュートは、米国の西海岸を制覇しようとしている。
アルディ店舗の特徴
アルディは低価格良品質の象徴とされ、1976年には日用雑貨なども置くようになった。その後、コンピューターやシャンパンなども扱い始め、低所得層だけでなく、中間層もアルディを訪れるようになった。
アルディの売上高は推定260億ユーロとされるが、正確な数字ははっきりしない。また最近、アルディにはコミュニケーション部が設立されたそうだが、そこにはFAXが設置されているのみという。こういったところに、アルディの徹底した経費削減策が表れている。
実際、アルディは客にショッピングを楽しんでもらうことを目的としていない。いかに必要な品を安く提供するかに主眼を置いているのだ。近年は、旧市街の中にも進出しているが、店舗デザインが若干モダンになり、採光を取り入れる程度で、その基本的な姿勢は変わらない。
世界に展開するALDI。
赤がノルト、青がズュート、緑は両店舗が進出している国々
出典: aldi.de, aldi-nord.de
アルディ兄弟の性格
彼らは敬虔なカトリック家庭に育ったために、よく働き、お金を貯めるために質素な生活を送り、日常は謙虚であることをモットーとした。一方、従業員に対しては常に最大のパフォーマンスを要求したために、たびたび元従業員から告発されている。しかしそのような告発は、ほかの国内のディスカウントスーパーでも同様に行われている。
2010年に弟のテオが亡くなり、その家族が資産を受け継いだ。戦後最大のドイツの企業家とも言える2人は、公共の場への露出を極端に嫌い、インタビューを受けたことがない。そのため、フォーブス誌の世界長者番付にも写真が掲載されていない。2人について知られていることと言えば、ビジネスと一線を引いた場では、兄弟は共にゴルフを楽しんだようだ。また、弟テオはタイプライターの収集を趣味としていたという。
ドイツ人の国民性とディスカウントスーパーの成長
ドイツには、マクドナルドなどのファストフードのほか、タイ料理や中華料理、トルコ料理など、自営のファストフード店が街中に数多く存在し、それらはインビス(Imbiss)と呼ばれる。近頃、日本でよく見掛けるようになったトルコ料理のドネルケバブはデュナー(Dönner)と呼ばれ、ドイツ人にとっての身近なファストフードだ。
あるタイ料理のインビスに行ったときのこと。そのインビスは、旧市街から少し外れたところにあるため車で乗り付ける客が多いのだが、駐車場がない。その店であるドイツ人家族と相席した際、駐車できる場所がなかなか見付からなかったことを嘆いていた。そこで、近くにある駐車場付きのタイ料理のインビスを紹介した。味はそちらもかなり良い。しかし、返ってきた答えは、「だって、あの店のメニューは1ユーロずつ高いじゃない」。ドイツに住む日本人の方には心当たりがあり、思わずニヤリとしてしまうエピソードに違いない。
ドイツ人は一般的に、衣食に関してはそれほどこだわらない。大都市のオフィスや繁華街でもカジュアルな格好の男性を見掛けるのが普通で、化粧をしていない女性も多い。食事については、量と価格が重要な要素である。外食での1ユーロの価格差にも彼らは敏感なのだ。それは、日本人と比べて衣食の質をあまり重視しないドイツ人の国民性もあるだろうが、日常生活は至って質素で、倹約家が多いことも関係しているだろう。
アルディ兄弟の成功は、このようなドイツ人の国民性にマッチしたものと言って良い。マネージャー・マガツィン誌のランキングの3位には、同じくディスカウントスーパーのリドル(Lidl)の創設者ディーター・シュヴァルツが総額資産13億ユーロで上っている。彼はこの1年で資産を1億ユーロ増やし、アルディ兄弟に肉薄している。
富裕層 Person mit hohem Eigenkapital
米国のプライベートバンクによって定義された概念で、住居用以外の不動産を保有し、100万ドル以上の投資可能な資産を持つ個人や世帯。銀行によって線引きは異なるが、500万ドル以上5000万ドル未満の資産を持つ世帯は超富裕層、5000万ドル以上の資産を持つ世帯はウルトラ富裕層と呼ばれる。100万ドル以上の資産を持つ富裕層数は、1位が米国で約1100万人、2位は日本で360万人、ドイツは5位で146万人である(グローバル・ウェルス・レポート 2012調べ)。参考
■ www.welt.de "Den Superreichen geht es so gut wie nie zuvor" (07.10.2013)
■ www.stern.de "Der sagenhafte ALDI-Mitbegründer"
(29.07.2010)
■ www.faz.net "Aus grundsätzlichen Erwägungen" (04.05.2013)
■ www.forbes.com "The World's Billionaires 2013"
■ www.stern.de "Aldi: Meilensteine der Firmengeschichte"
(04.04.2013)
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