6歳で小学校に入り、12歳で卒業。13歳で中学校に入り、15歳で義務教育を終える。私たちが当たり前のように感じているこの日本の教育制度は、戦後米国から取り入れられたもので、欧州諸国とは異なっている。日本では詰め込み教育、その後のゆとり教育などの問題が叫ばれているが、ドイツの教育制度もいろいろな問題が潜む。今回は、この国の教育制度とその問題点に迫る。
ドイツの教育制度
ドイツの教育制度は、基本的に各州に任せられていると考えて良い。そのため、州によって制度が若干異なる場合がある。ここでは、バイエルン州を例に挙げてみよう。
• 初等教育
ドイツでは、6歳で日本の小学校に当たる基礎学校(Grundschule)に入学する。日本と大きく違う点は、基礎学校が4年制であることだ。大学を目指すかマイスターを目指すか、子どもたちは基礎学校を卒業する10歳で、将来の道を選択する岐路に立たされる。子どもの進路決定は学校による成績判断であるが、これも州ごとに異なる。• 中等教育
卒業後に就職し、職業訓練を受ける生徒が進む5年制の基幹学校(Mittelschule, 旧:Hauptschule)、卒業後に職業専門学校への進学を目指す生徒が進む実科学校(Realschule)、大学進学希望者が進む8年制のギムナジウムがある。また、3つの学校形態を包括した総合制学校(Gesamtschule)もある。
ドイツの義務教育は9年(州によっては10年)である。日本の学校では、義務教育期間中はもちろん、高校においても留年はまれだが、ドイツのギムナジウムでは、ストレートに卒業できる生徒は6割程度と言われている。大学の入学資格を得るにはアビトゥア(Abitur)という試験をパスしなければならない。日本の大学入試センター試験が資格になったようなものと考えていただきたい。
アビトゥアの問題
アビトゥアは、全国統一試験であるにもかかわらず、州によって難易度が異なり、南部ではより難しいと言われている。このスコアによって入学できる大学や学部が決まるわけだが、この違いが学生の人生を左右することになる。したがって、この差を解消するため、2017年より一部の教科で全国統一基準が採用されることとなった。
高等教育
高等教育には、主に総合大学(Universität)と専科大学(Fachhochschule)がある。アビトゥア合格者は、原則的にほとんどの大学や高等教育機関へ進学できる。
教育制度がもたらす弊害
高等教育を受ける者と職能教育を受ける者を早期の段階で振り分けることによって、ドイツの伝統的なマイスター制度が維持されてきたという面がある。しかし近年は、この制度がもたらす弊害が目立つようになってきた。専門高等教育を目指す生徒が増え、基幹学校を目指す生徒が減っているのだ。そのため基幹学校は、成績が悪い生徒や移民が多く通う学校というレッテルが貼られるようになってしまい、基幹学校卒業後は職業学校に進むと同時に企業内で職業訓練を受けるのが一般的なパターンであったが、企業も実科学校からの生徒を好んで採用するようになった。
ギムナジウム8年制の問題
以前、ドイツのギムナジウムは9年制であった。大学入学の年齢が他国より1年遅く、就業生活に入る時期がその分遅れることから、2007年頃より8年制を導入する州が出てきた。2011年に8年制を導入したバイエルン州では、教育関係者の93%が同制度に対して批判的で、40%が9年制に戻すことに賛成している。同じく2011年に8年制を導入したニーダーザクセン州は、2015、16年より9年制に戻すことを決定している。
このように、日本だけでなくドイツも教育制度に問題を抱えている。教育制度は、その施策や改善が結果として良いものかどうか、数十年経ってみないと分からないという点が、どの国にも共通する悩みなのかもしれない。
ドイツの私立学校 ~シュタイナー学校~
日本では大学進学率、就職率の向上を目指し、学習内容を公立学校より強化する私立学校が多い一方、ドイツにはユニークな教育方針を取り入れている私立学校が多い。私立学校を選択する場合は、親の教育方針に則って選ばれると考えて良いだろう。
中でも有名なのは、シュタイナー学校だ。ルドルフ・シュタイナーが提唱したアントロポゾフィー(人智学)に沿って設立された学校は、大きく以下3点の独自の教育方針を持つ。
1.エポック授業
1日に数科目を教えるカリキュラムではなく、3~4週間は同一教科を教えるエポック制を取り入れている。
2.クラス担任の固定
シュタイナー学校は12年制だが、入学してからの8年間は同じ担任がクラスを受け持つ。
3.スコアのない通信簿
低学年ではテストを行わず、通信簿には子どもの学校生活の様子と教師の意見が書かれる。
その他にも、情操教育やオイリュトミー(運動を主体とするパフォーマンス・アート)などを重視する。
このような独自のカリキュラムを持つ学校であるため、小学校からの入学が原則で、途中編入の受け入れは積極的には行っていない。近年は、入学競争率も非常に高まっている。また、通常の授業においてアビトゥア取得に必要な科目基準を満たしていないため、大学進学を希望する生徒は1年長く学ぶことが多い。
私立学校は独自のカリキュラムを組んでいるが、その内容が不十分で、公立学校とのかい離を埋められない場合もあるようだ。2013年にはバイエルン州のシュヴァインフルトにある私立高校が、アビトゥア合格者が受験生27人のうち2人だけだったために閉校になった。同州の教育委員会(Der Bildungsausschuss des Landtags)の調査によると、27人中15人はドイツ語、英語、数学の教科において、平均が3.5と合格ラインを満たしていなかった。
保育園、幼稚園
Die Krippe, der Kindergarten
就学以前の教育としては、0~3歳までは保育園(Krippe)に通うか、保育ママ(Tagesmutter)に預けられ、3~6歳までは幼稚園(Kindergarten)に通う。就学前教育は日本と同様、義務教育ではない。保育時間は基本的に午前中で終了するが、両親が共働きなどで子どもを継続的に世話してもらう必要がある場合には、託児施設(Kindertagsstätte=Kita)に預けることが多い。
<参考文献とURL>
■ www.zeit.de "Jedem Kind eine Chance"(15.01.2010)
■ www.welt.de "Abitur soll vergleichbar werden" (20.10.2012)
■ www.welt.de "Privatschule schließt nach Abi-Debake"(13.07.13)
■ www.welt.de "Nichts führt an der Schulzeitverlängerung vorbei" (15.04.14)
■ 独立行政法人労働政策研究・研修機構「海外労働情報」
■ 「ミュンヘンの小学生~娘が学んだシュタイナー学校~」子安美和子(中公新書20.12.1975)
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