第3回 ドイツ現地法人と売上税
日系企業をはじめ、外国企業がドイツに進出する際は、まず現地子会社を設立するという形が一般的です。現地法人を拠点にして、ドイツの顧客に商品やサービスを提供するわけです。この場合、商品の仕入れや企業グループ内の役務提供(コンサルティングなど、無形の業務支援)において、常に親会社とのつながりが発生します。今回は、その際の売上税(Umsatzsteuer=付加価値税)の扱い方について、例を挙げてご説明します。
1. 第3国からの商品調達
ドイツにある外国企業の子会社が第3国から商品を調達する場合、まず納品条件に着目することが重要となります。通常、多くの商品は関税抜き、課税対象外の扱いで工場から出荷されます。この場合、購入者はドイツ国境で輸入売上税(Einfuhrumsatzsteuer)を支払い、国内でその還付を受けます。
【 実例 】
日本に本社を持つ親会社が、インコタームズ(国際商業会議所が策定した貿易条件の定義)で言う「EXW(Ex-Works=工場渡し)」で商品を出荷しました。ドイツの子会社は、物流企業にドイツへの輸送を依頼します。物流企業はドイツ子会社に代わり、ドイツ国境でいったん関税と輸入売上税を支払います。しかし、ドイツ子会社は物流企業からの請求書があれば、輸入売上税の還付を受けることができるため、親会社と子会社の間で行われた商品調達については事実上、売上税は発生しません。
2. ドイツから他国への出荷
基本的には、ドイツ企業(ドイツにある日系企業の子会社を含む)が欧州連合(EU)の他国または第3国に商品を出荷する場合には、売上税は発生しません。ただ、以下の事項に留意する必要があります。
まず、商品が非課税である旨と、売上税法上の該当条項を請求書に明記しなければなりません。さらに、発送商品の正確な内容と量、納品日も書き添えます。EU域内への出荷の場合、請求書に自社と納品先の両方の付加価値税登録番号 (Umsatzsteuer-Identifikationsnummer)を明記します。
2014年1月からEU加盟国の商品受取人は、商品受領書(Gelangensbestätigung)により、商品を受け取った事実を証明する義務を負うことになりました。この受領書は、最長で過去3カ月間に受領した商品については、1枚にまとめて発行することも可能です。重要なのは、受取人が受領書に自らサインすることです。メールで受領確認をする場合には、メール送信者と商品受取人が同一人物であると判別できることが求められます。まれに、送り状またはこれに類する物流企業発行の証明書が商品受領書の代用書類として認められることもあります。
3. 第3国から受ける役務
ドイツの子会社が親会社の役務提供を受ける場合には、その内容と規模を記録し、個々の役務事項について事前に正確な単価を決めておく必要があります。このような記録は、アームズ・レングス原則(独立当事者間原則)を満たし、役務の比較可能性を保つために不可欠です。他国への企業の利益移転を防ぐため、税務署が最初にチェックするのが役務提供の科目です。
ドイツ国内の企業が国外から請求書を受け取る際、請求書は売上税なしで発行されるのが普通です。とはいえ、これは実際には売上税納税義務の発生する場所がドイツに移動したにすぎません。役務遂行地の原則に沿って考えれば、その役務が提供された場所で売上税を支払う義務が生じるのです。
こうした事情から、ドイツの子会社は役務を受けた者として国内で売上税を申告しなければなりませんが、同時に企業として同額を前段階税額控除(仕入税額控除)することができます。つまり、この場合にもドイツの子会社には売上税の負担が掛からないわけです。
4. ドイツ国内から他国への役務提供
ドイツの子会社が役務(サービス)をEUの他国またはその他の国に提供する場合には、基本的に売上税は発生しません。サービス提供地は、すなわちサービスを受けた場所(相手企業の所在地)であるからです。この場合、請求書の文面に、サービス受領者が納税義務を負う旨(reverse charge)を明記しなければなりません。
また、売上税を計上せずに請求書を発行する場合は、サービス受領者が一企業であることに留意します。EU域内の企業であれば、納品時と同様、請求書に付加価値税登録番号を併記することにより企業組織であることを証明できます。サービスを受けるのが第3国、例えば日本の企業の場合には、現地の管轄税務署が発行する納税証明書によって企業組織であることを証明します。
国境を越える商取引においては、常に売上税の扱いに留意する必要があります。税務署は企業に対する税務調査を強化しており、企業が正式な納税手続きを怠っていたことが発覚した場合には、直ちに追徴課税の措置が取られます。商品が販売会社を通さず直接顧客に納品される取引形態では特に規定が複雑なので、適正に納税するためには個々の事例を検証することが必要です。それ以外にも、企業の多種多様なサービスに応じて、取引全般において個々の事例検証を求められることがあります。ご不明点は、お気軽に弊社までお問い合わせください。
(著:税理士クリスティーネ・フュッセル)
リンケ・トロイハント会計税理事務所
ジャパンデスク
担当:田中
www.rinke-japan.de
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