親知らずの抜歯について
人間の顎の一番奥にある歯「親知らず」は、20歳を過ぎてから生えてくるのが一般的です。今の時代では想像も付きませんが、大正時代までの日本人の平均寿命は45歳以下でした。つまり、成人して親知らずが生えたとき、すでに親はなしという状況で、これが「親知らず」という言葉の由来と言われています。
親知らずが斜めに生えていることが分かるレントゲン写真
さて、古今東西、親知らずの問題や悩みには国境がないようで、日本に限らずドイツでも親知らずの抜歯が必要なケースが多くみられます。痛くなったから親知らずを抜くという場合がほとんどですが、実はこの痛みの原因は「細菌感染」。親知らずは顎の一番奥にある上に、現代人は顎が小さくなる傾向にあり、斜めに生えてくることが多くあります。そのため、親知らずが生えてきても気付かない、または歯磨きが行き届かず、虫歯や歯周病になって痛みが生じるのです。
ところが、親知らずはまだ生えていなければ無菌状態にあるため(歯肉に埋まっている状態)、痛みが出ることはありません。痛くなった歯(細菌に感染した歯)を抜くよりも、まだ完全に埋まっている歯を抜く方が、術後の傷の治りもずっと早いのです。
親知らずがわずかに生え始めている様子
日本人の間でよく言われるように、親知らずの抜歯に関して日独で大きな違いがあるというのは事実です。それが何かというと、ドイツでは「一度に全部の親知らずを抜くことが多い」ということです。親知らずが全部揃っていれば上下左右4本ありますが、同時に4本を抜くというのは日本人にはかなり抵抗があると思います。
しかし、日独の差の理由は極めて単純で、日本の場合「大変だから1本ずつ抜く」と考えるのに対し、ドイツの場合「大変だから全部を一度に抜く」と考えます。どちらも抜歯は大変という認識があるものの、その対処法がまったく正反対であるのは興味深いところです。
もちろん、一度に4本の抜歯は精神的・体力的にも負担が大きいので、全身麻酔(正確には静脈内鎮静法。麻酔中も意識があり、気持ち良く酔ったような感覚になります)を行い、意識が戻ったときには、治療はすべて終了しています。ところが、日本人は全身麻酔に対して強い抵抗感があるため、ドイツでの抜歯をさらに困難にしている面があります。
また、親知らずの抜歯後に頬が腫れることがありますが、4本を一度に抜いた後は特に顔がパンパンになり、翌日は仕事どころではなくなるケースもあります。ところが、皆さんもよくご存じの通り、労働者の権利が守られているドイツ。月曜日に抜歯をし、歯科医師からKrankmeldung(病欠証明証)を発行してもらい金曜日まで病欠、前後の週末と合わせて9連休を取るという強者もいます。
一方、1本ずつ抜歯をする日本人の場合、頬が腫れてしまうと次の抜歯が怖くなってしまい、残っている親知らずが問題を起こしてから仕方なく次の歯を抜く……という悪循環に陥りがちです。ただし、その時の抜歯後の腫れや痛みはさらに大きくなる可能性があります。
親知らずの抜歯の際は、仕事やスケジュールなどを考慮し、歯科医師によく相談してから決めることをお勧めします。
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