3月24日、ジャーマンウィングスの飛行機がフランス南部のアルプスに墜落したというショッキングなニュースが世界を駆けめぐった。報道によれば、副操縦士が意図的に飛行機を墜落させた可能性が大きいという。今回の事件の直接の原因はまだ解明されていないが、人命を預かるパイロットという職種ゆえの不安なども、近年頻発しているストライキから垣間見ることができるのではないだろうか。
ドイツのストライキの概要
ドイツでのストライキ(Streik)のしくみは、本コラム「ドイツは『スト共和国』か」(第878号、2011年7月29日発行)に詳しいが、ここで簡単におさらいをしてみたい。
ドイツにおける被用者(労働者)は、ドイツ連邦共和国基本法第9条「結社の自由」第3項において、労働協約(Tarifvertrag)などの規制はあるが、労働組合(Gewerkschaft)によるストライキが認められている。しかし、ストライキ期間中は使用者(雇用主)からは給与が支払われないため、その間の「給与」は労働組合のストライキ準備金から支払われる。この労働組合に対し、使用者は使用者団体を組織している。ストライキの場合はここがロックアウト(作業所閉鎖、Aussperrung)を行って、労働組合のストライキ準備金の蓄えが尽きるのを待つ策をとることもあるが、使用者側の損失は大きい。ストライキを始めた被用者も使用者も、早い段階で問題解決に至らなければ、両者にとってデメリットとなる。
労働組合や使用者団体は、日本と同様に各業界ごとに存在する。両者は、労働協約をめぐる闘争では対抗関係にあるが、労働裁判所の設置や社会保険の運営、職業訓練などについては協力関係を築いている。
コックピット労働組合とストライキの論点
現在注目を浴びているパイロット。彼らを契約面で支えているのがコックピット労働組合(Vereinigung Cockpit e.V.、以下VC)である。その概略およびストライキの論点について掘り下げてみよう。
VCは1968年に設立された労働組合で、メンバーは旅客機操縦士と航空機関士であり、現在約9300人の組合員がいる。VC組合員の賃金交渉については、2000年までドイツ職員労働組合(Deutschen Angestellten - Gewerkschaft、以下DAG)が行っていた。しかし、DAGがドイツ統一サービス産業労働組合(Vereinte Dienstleistungsgewerkschaft、ver.di)の傘下に入り、ほかの組合と合併することが決まったため、VCはパイロットという職務の特殊性により、単独の労働組合として労働協約の交渉を行うことになった。
今年3月、VCは3日間にわたり、2014年4月以降12回目となるストライキを行った。要求は、「55歳に早期退職をしても、年金支給開始までの間、退職時の給与の60%を会社から受け取ることができる権利」をめぐるものであった。また2月にも、VCは航空大手ルフトハンザ航空の子会社ジャーマンウィングスの早期退職後の待遇に関しても、同様の要求を掲げてストライキを行っている。
パイロットの給与は、平均で年間10万~20万ユーロ。最終的には25万ユーロほどになるという。業務は人命を預かりながら、時差や気候の変化などにも適応しつつの任務となるので、肉体的・精神的にも大きなプレッシャーがかかる。その上、年に1~2度行われる厳しい航空身体検査に合格しなければ、早期退職を迫られる人もいる。今回のストライキでVCが掲げた要求は、パイロットの将来に対する不安を取り払い、また乗客が安心して搭乗できるためには必要条件であると言えるかもしれない。
鉄道のストライキの行方
機関士労働組合(Gewerkschaft Deutscher Lokomotivführer、以下GDL)による鉄道職員や乗務員のストライキもこのところ頻発している。GDLは1867年にドイツ機関士連合として設立され、その後1919年にプロイセン・ヘッセン機関士団体と名称を変更した。1937年には労働組合が禁止されたため解散したが、戦後1946年に再設立され、現在に至る。現時点の組合員数は約3万4000人であるが、鉄道交通労働組合(Eisenbahn- und Verkehrsgewerkschaft、以下EVG)という組合員数21万人の団体もある。本来ならば、1つの職場に1つの労働契約(Tarifeinheit)しか認められないはずであるが、この事態を労働裁判所は容認しており、使用者側は問題視している。
2014年秋から続く、ドイツ鉄道に対するGDLの要求は以下の5点であった。
① 給与の5%の賃上げ
② 1週間の労働時間を39時間から37時間に短縮
③ 時間外労働の上限を50時間に設定
④ 勤務のない週末休暇(金曜日の22:00~月曜日の6:00)の確保
⑤ EVGとGDLの労働協約を、すべての職員や乗務員に適用すること
これらは労働組合と使用者団体との間では解決できず、一時労働裁判所預かりとなった。現在は再度両者で交渉中ではあるが解決策を見いだせないように見える。
交通機関がストライキを行った場合の乗客の権利
※航空会社や鉄道会社によっては、条件が異なる場合あり。
労働組合
Gewerkschaft
1848、49年頃に結成された、労働者を代弁する労働団体がドイツの労働組合の最初とされる。以後、ナショナリズムの台頭により一時は労働組合が禁止されたが、第2次世界大戦以降に復活した。1990年以降、労働組合は組合員の減少に断続的に悩まされているが、経営体規則法、労働裁判所法に規定された役割を担い、被用者のために使用者団体との交渉を行い続けている。<参考>
■ Der Spiegel "Der Amokflug" (01.04. 2015)
■ Frankfurter Allgemeine Zeitung "Mit Ausdauer, Charme und Härte"(19.02.2015)
■ www.faz.net "Die üppige Versorgung der Lufthansa- Piloten" (01.04. 2014)
■ www.airliners.de "Pilotenstreik Nr. 12 bei der Lufthansa" (17.03. 2015)
■ www.gesetze-im-internet.de "Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland"
■ www.welt.de "Forderungen der GDL"
■ www.faz.net "Was mache ich, wenn mein Zug ausfällt?" (05.11.2014)
■ www.faz.net "Was mache ich, wenn mein Flug ausfällt?" (30.11.2014)
■ ドイツ連邦共和国外務省2003年5月版「ドイツの実情」
■ www.vcockpit.de
■ www.gdl.de
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