日本人とドイツ人、 歯並びの違い
数年前、日本では若い女性の間でアクセサリー感覚の「付け八重歯」が流行ったそうです。過去には八重歯(犬歯)がチャームポイントというアイドルがいたほど、その独特な歯並びがかわいいと認識されていた時代もありました。
しかし、この八重歯も含めた不揃いな歯並びは、歯科学的に「叢生(そうせい)」に分類される、日本では最も多い不正咬合(ふせいこうごう)の1つです。見方によってはかわいいと思われる八重歯も、歯磨きの難しさから虫歯や歯周病になりやすく、また唇の損傷原因になったり、噛み合わせの悪さが顎の成長に支障を来すこともあって、現在では八重歯を改善するための歯科矯正治療を受ける人が増えました。
外国では一般的に、八重歯に良い印象は持たれませんが、「ドラキュラを連想させるため」というのは後付けの理由で、実際は、白人には叢生の噛み合わせの人がほとんどいないため、滅多に見ることのない八重歯に強い違和感を抱くのだそうです。また、原因は分かりませんが、八重歯はアジアの中でも特に日本人に多く見られるようです。
日本人の八重歯
ドイツでは叢生症例が少ないため、「ドイツ人は歯並びが良い!」と思われる人も多いでしょう。確かに、前歯が真っすぐに並んでいると笑顔が美しく見えます。しかし、外見からは分かりにくいのですが、ドイツ人は我々日本人にはあまりない、別の不正咬合の問題を抱えているのです。
それは、上顎の前歯が内側に入り込み、かつ上下の顎の噛み合わせが深い「過蓋咬合(かがいこうごう)」と呼ばれるものです。この過蓋咬合の問題点は、上顎の歯が下顎を後ろ上方に押し込むため、顎関節を圧迫して顎関節症(顎関節や頭頸部、また周辺の筋肉疼痛、頭痛など)の大きな原因になることです。そのため、見た目は美しい歯並びであっても、実は機能的な問題を抱えているというケースが非常に多いのです。
ドイツ人に見られる不正咬合
さて、日本人に多い八重歯ですが、歯科矯正治療を行う際には上下左右4本の歯(小臼歯(しょうきゅうし)=犬歯の後ろにある歯)を抜いて、八重歯を歯列に取り込むための隙間を確保することがあります。1980年代までの日本では、矯正治療のための小臼歯抜歯が多く行われていました。しかし、治療のためとはいえ健康な歯を抜歯することに対する抵抗感や、小臼歯抜歯の矯正治療による弊害の報告が増えたこと、また治療機器や技術の向上などにより、現在はできるだけ小臼歯を抜かない治療方針に変わってきました。
しかし、ドイツでは八重歯の症例が極度に少なく(当院では日本人以外の全症例のうち0.2%)、歯科医師も叢生の治療経験があまりないため、ドイツにおける八重歯の治療はほぼ小臼歯抜歯が前提で行われているというのが現状です。一番奥に生えて問題を起こしやすい親知らずとは状況が異なり、一般的に小臼歯は顎の中に無理なく生え、かつ機能的・審美的にも重要な役割を果たしている歯です。八重歯や叢生の矯正治療の際には、小臼歯抜歯をしない方法の可能性もあるかどうか、歯科医師に相談してみることをお勧めします。
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