ボンで開催された第39回世界遺産委員会で、この度「明治日本の産業革命遺産」が、正式にユネスコ世界文化遺産に登録されました。欧米以外で、最も早く重化学分野での産業革命を達成したことを証明する遺産として、造船所跡、製鉄所、炭鉱など8地域に点在する23資産が「産業遺産群」として登録されました。
静岡県の伊豆韮山(にらやま)にある「韮山反射炉」もその1つです。反射炉とは、金属を溶かして大砲などを鋳造する溶解炉のこと。韮山反射炉は、江戸時代末期に建造された反射炉としては唯一、完全な姿で残っているものです。この反射炉建造の指揮を執ったのは、江戸時代末期に韮山の代官であった江川太郎左衛門英龍。先見の明があった人物で、黒船の再来に備えて品川に台場と砲台を造り、西洋式農兵制度を発案するなど、西洋の先進技術を積極的に導入して日本の近代化に貢献しました。日本で最初にパンを焼いた、「パンの祖」ともいわれています。
「富岡製糸場と絹産業遺跡群」に続き、
世界遺産の1つとなった韮山反射炉で飲めるビール
先日、その江川太郎左衛門英龍の名を冠したビール「太郎左衛門」を発見しました!華やかな香りと苦味が特徴のイングリッシュペールエールは、韮山反射炉に隣接する醸造所「反射炉ビヤ」で飲むことができます。この醸造所の創業は、日本の地ビール醸造解禁から3年後の1997年。この酒造りにも使われていた良質な水で造られるビールは、繊細かつ深い味わいで、観光客や地元の人に人気です。
太郎左衛門に由来したビールがもう1つ。「農兵スチーム」です。太郎左衛門が組織した日本初の西洋式民兵「農兵」から名付けられました。太郎左衛門は、日本は軍隊がよく組織された文明国であることを欧米に示すために、韮山の農民を訓練し、黒船との交渉に同行させました。よく耳にする「気をつけ」「前にならえ」「右向け右」などの号令も、太郎左衛門の農兵訓練が起源とされています。
スチームビールとは、低温で発酵させるラガー酵母を、エールビールの製法と同じく高温で発酵、熟成させたビールです。19世紀半ば、ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアが発祥の地です。ドイツからの移民が、母国の製法通りにラガー酵母を発酵させてビールを造ろうとしたところ、カリフォルニアの高温な気候により発酵が加速され、栓を開けるとまるで蒸気のように泡が噴き出したことから、「スチーム(蒸気)ビール」と呼ばれています。
「農兵スチーム」は、農民と兵隊の顔を併せ持つ農兵が、エールとラガーの両方の特徴を持つスチームビールに通じることから命名されました。反射炉ビヤでは、そのほかにも「頼朝」(源頼朝)や「大吟醸政子」(北条政子)など、地元に縁のある人物の名前を冠したビールを製造しています。
静岡県以外では知名度が低い太郎左衛門ですが、世界遺産登録を機に、その功績が日本人に認知されつつあります。まずは先人たちの偉業に感謝して、ビールで乾杯!
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