ジャパンダイジェスト

歯科治療と金属について 2

歯科治療と金属について 2

前回は、歯科治療と金属アレルギーの関連についてお伝えしました。続く今回は、2世紀も前から現在まで使用されている金属についてのお話です。

皆さんは、「アマルガム」という歯の詰め物の材料について聞いたことはありますか? 前回本コラムで取り上げた、パラジウム合金と同じく「銀歯」といわれる種類のもので、艶のない銀色をしています。アマルガムを構成する成分の1つに水銀があります。これは、「無機水銀」というもので、常温でも固まらずに流動性を持つ唯一の金属です。現在ではあまり見掛けませんが、身近なところでは体温計や血圧計に利用されている水銀がこれです。

さて、アマルガム合金が歯科で利用され始めたのは、今から200年ほど前のこと。1826年に、フランスの歯科医師が銀貨をやすりで削った粉に水銀を混ぜ、そのペースト状のものを虫歯治療の材料として発表したことから始まりました。歯科医療の現場で、最も古くから用いられている金属で、今もなお使用されています。アマルガムは原価が安く、操作が容易で、機械的強度も比較的強いことから、歯科医療従事者に重宝されてきました。しかし、この一見万能に思えるアマルガムという素材も、実は大きな欠点を抱えているのです。

それは、「水銀中毒」のリスクです。歯科医療や体温計などに用いられる無機水銀は、間違って飲み込んでしまったとしても、消化管からはほとんど吸収されないため、急性中毒を起こすことはありません。しかし、液状の水銀が気化して呼吸器に入った場合は、容易に体内に吸収され、中枢神経系、内分泌系、腎臓などの器官に障害をもたらします。

現在、日本の歯科公的機関では、「歯科の詰め物に使用される水銀は構造的に安定しており、身体に害はない」と結論付けています。米国においては、国としては日本と同様の見解を示していますが、アマルガム治療による健康障害について訴訟が多発していることを受け、州によってはアマルガムの使用規制や、危険性について患者に情報提供することを義務化しています。一方、アマルガムの全面規制をしているのがスウェーデンとノルウェーです。また英国では、妊婦への使用を禁止する旨の勧告を出しています。

ドイツでは、法的にはアマルガム治療が許可されているものの、医療を提供する側が水銀による害への懸念を持っていることから、あまり使用されません。いずれにしても、先進国では使用頻度が低下傾向にあり、発展途上国や健康保険制度が充実していない国で多く使用されているという状況です。歯科医療で用いられる金属をめぐっては、その利用価値(価格や加工のしやすさ)によってのみでは評価はできず、身体に与える弊害の有無、政治・社会的な事情など、様々な事情が常に絡んでいるのです。

アマルガムが歯に充填されている様子
アマルガムが歯に充填されている様子

こうした問題はあるものの、歯科治療において金属はもっとも身近な材料です。一方で近年は、リスクを避けつつ審美性を求める、金属不使用(メタルフリー)の流れがあります。金属に替わる代表的な材料は、陶材(セラミック)。イオン流出を引き起こしやすい金属とは違い、アレルギーの危険性がほとんどなく、生体親和性が非常に高い素材です。またセラミックは審美性にも優れ、熟練した歯科技工士により、本物とそっくりな歯を再現することが可能です。

以前は、セラミック製の歯は衝撃に弱く、物理的な強度が弱点とされていましたが、現在では技術の進歩により、前歯から奥歯まで、場所を選ばず適応可能な材料となりました。金属も非金属も、歯科には必要不可欠な材料。患者さんの健康にとって、何がベストな治療材料なのか、その選択は歯科医師にとっても大きな課題です。

 
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