ジャパンダイジェスト

空への夢を乗せた先駆け ツェッペリン

昔から、人々は鳥のように大空を飛ぶことに思いを馳せてきた。今でこそ、航空機は目覚ましい進化を遂げ、われわれも大型旅客機で世界中どこへでも空の旅が可能になった。この進化を遂げる過程で、一つの重要なステップとして登場し、大活躍したのがドイツ生まれの硬式飛行船ツェッペリンだ。来る2017年、製作者ツェッペリン伯爵の没後100周年を迎えるにあたり、ツェッペリンに迫ってみたい。

飛ぶことへの憧れと人類の挑戦

大昔から人類は飛ぶことに憧れていた。それを最初に実現させたのは、フランス人製紙業者のモンゴルフィエ兄弟だ。舞い上がる燃えカスを見て、暖められた空気でものが浮かぶことに気付き、気球を発明。1783年6月には初めて無人で、同年末までに動物や人間を乗せた気球飛行に成功した。そして、1903年、米国のライト兄弟が動力付き飛行機で有人操舵飛行に初成功した。

硬式飛行船 ツェッペリンの誕生へ

19世紀後半、軍事用の飛行器具は気球のみだった。ツェッペリン伯爵は、1863年ドイツの軍人として南北戦争視察のため渡米。その際に初めて気球に乗り、戦闘の様子を視察した。伯爵は、「忘れられないほどの感動」を覚え、気球は便利な反面、風力頼りで制御不能な点が欠点だとも認識した。そして、1874年4月25日付の自身の日記に初めて、制御可能な飛行船「ツェッペリン」の構想を記し、1887年にはヴュルテンベルク王カール1世へ、軍隊用の飛行船の必要性を記した手紙を出した。

1890年に退役した後は、ますます飛行船の開発に傾倒。開発費用を約100万マルクと目算し、最初の投資依頼の相手は、皇帝と国防省。しかし、専門家の反対に合い、集まったのは約6000マルク。さらに、友人やバーデン王の家族から少しずつ援助を受け、合計約10万マルクを集めた。1896年にはドイツ技術者協会に入会し、援助を受ける。1898年にツェッペリン株式会社を設立した際、創業資金の半分以上の約40万マルク強はツェッペリン伯爵の個人資金であった。1899年から飛行船の製造に着手。当時、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、彼を「南ドイツ一番のバカ」と揶揄したが、1900年に史上初の硬式飛行船ツェッペリンLZ1がボーデン湖を初飛行。同年に、試験飛行を計3回実施し、回を重ねるごとに進歩していく技術を、皇帝もついには認め、翌年には勲章を授与している。

1900年の初飛行
1900年の初飛行

硬式飛行船 ツェッペリンの誕生へ

資金難から解放されたのは、1908年にドイツ軍がLZ3(その後ZⅠと改名)を購入してから。同年LZ4は、初の墜落事故を起こすも、逆に人々の関心を引き約650万マルクの寄付を集めた。1909年からは旅客運送を開始。1600回以上を無事故で飛行し、何万人もの旅客を運ぶという、当時としては大成功を収める。

第一次世界大戦(1914-1918)中は、多くのツェッペリンが製造され、偵察や長距離爆撃に使用されることとなる。しかし、水素浮揚ガスの可燃性や、速度の遅さ、大きさなどが不利に働くようになる。また、飛行機の技術が飛躍的に進歩したこともあり、戦後はツェッペリンの開発はほとんど停止した。1924年、米国の注文で製造再開。このLZ126は、ニューヨークへ81時間かけ問題なく納入飛行し、乗員はホワイトハウスへ招待された。

この成功を受け、ドイツでも1928年にLZ127を製造。これは最も成功した旅客飛行船で、世界一周の旅や1931年の北極観測にも使用された。1937年、ヒンデンブルク号(LZ129)が米国での着地に失敗し、爆発事故を起こしたことを契機に、飛行船の時代は終わりを迎えた。

新しく生まれ変わったツェッペリンNT

1990年代に入ってから、ツェッペリン・ルフトシフ・テヒニークが、かつての飛行船の弱点を見直し、新しい時代の飛行船の製造に着手した。安全性を最優先し、不燃物のヘリウムを採用した、「ツェッペリンNT」(NTは新技術の略)を開発。その名の通り、現代の最新技術や素材を使用し、環境にも配慮している新しい飛行船だ。1997年、1番船「フリードリヒスハーフェン」、2001年8月に2番船「ボーテンゼー」など、現在までに5隻が製造され、現在は、遊覧や宣伝などに使用されている。

ツェッペリンNT
2007年、東京上空を遊覧するツェッペリンNT


ドイツ国内のツェッペリン関連施設


博物館


1. Zeppelin Museum Friedrichshafen

最も大きく、展示物は見応えがある。ボーデン湖の美しい景色も楽しめる。
Tel: 07541-3801-0
www.zeppelin-museum.de

2. Zeppelin-Museum Meersburg

ハインズ・アーバン氏の個人コレクションからなる私立博物館。1500点以上もの展示物を楽しめる。
Schloßplatz 8, 88709 Meersburg
Tel: 07532-7909
www.zeppelinmuseum.com

3. Zeppelin-Museum Zeppelinheim

入口横の屋根が弧を描いている特徴的な建物が目印。この弧がツェッペリンの胴体部分4分の1に相当し、大きさを想像できる。
Kapitän-Lehmann-Str.2, 63263 Neu-Isenburg
www.zeppelin-museum-zeppelinheim.de


ツェッペリン周遊体験

ツェッペリンNTが提供する周遊体験。ルートは、30分コース(220ユーロ)から、2時間コース(795ユーロ)まで。
Messestr.132, 88046 Friedrichshafen
Tel: 07541-59000
http://zeppelin-nt.de/de/zeppelin-fluege.html

屋内プール複合施設 Tropical Islands

1990年代、カーゴリフター社が超巨大飛行船を作ろうと計画したが、資金不足で失敗。その建造物を利用して、ベルリンから約60km南の町クラウスニックに室内プール・スパのテーマパークが建てられた。支柱のない建物としては世界最大。東京ドームの約4.6個分である。
Tropical-Islands-Allee 1, 15910 Krausnick
Tel:+49 354 77 605050
www.tropical-islands.de

Tropical Islands

 

 

ツェッペリン伯爵
Graf Zeppelin

フェルディナンド・フォン・ツェッペリンは、1938年バーデン大公国(現バーデン=ヴュルテンベルク州)コンスタンツに生まれ、硬式飛行船を実用化。飛行船の代名詞となった。軍人の道を歩み、最終軍歴は中将。飛行船で大西洋横断という目標の実現を見届けず、1917年に亡くなった。世界一周の途中、1929年8月29日には日本に立ち寄ったこともある。

<参考>
■「静かで機敏な新ツェッペリン号」『日経サイエンス』2000年3年号
■Wassertornados in der Ostsee: Meeresforscher setzen erstmals Zeppelin ein (Spiegel Online, 22.05.2016)
■ Meeresforschung in der Ostsee: Tornado in der Tiefe (Spiegel Online, 25.06.2016)
■ 航空スポーツ教室「挑戦の歴史 人間が空を飛ぶまで」 http://nssp.c-arts.net
■ 知ってなるほど 明治・大正・昭和初期の生活と文化「人々の夢とロマン ~飛行船から南極探検まで~」www.jacar.go.jp ほか

筧 美恵子(かけひ・みえこ) 大学卒業後、婦人服のパタンナーとなる。その後一転し、電機メーカーにて主に輸出関連業務に10年間携わる。その頃からドイツとの馴染みが深い。2006年4月からニュルンベルク在住。幅広い視野を持って、分かりやすい記事の発信を目指す。健康のため、ジムで筋力トレーニングに日々励んでいる。

 
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