ジャパンダイジェスト

2016年ドイツホップの最新事情

ビールに爽やかな香りと苦味を与え、「ビールの魂」とも呼ばれているホップ。ビール造りになくてはならないツル科の植物です。ビール大国ドイツは、当然のことながら世界有数のホップの名産地。2016年のホップの作付面積は1万8000ヘクタール(東京ドーム4000個分)、生産量は3万5000トンを超え、全世界のホップ生産量の3割強をドイツが占めています。中でもバイエルン州のハラタウ地方(Hallertau)は、ドイツ国内生産量の8割を占めます。ハラタウ地方のホップ造りの歴史は古く、736年にホップが栽培されていたという記録が残っています。ドイツには35種類のホップが栽培されており、高品質を保つハラタウ産ホップは世界中の醸造所で使用されています。

ハラタウ産のホップが高品質である理由は何でしょう? まず、ハラタウの土地の特性。水はけが良く、夏場の日照時間が長いのでホップ造りに適していていたこと。次に、バイエルンの州を挙げての取り組みがあります。その心臓部が「バイエルン州立農業研究所付属ヒュールホップ研究所」です。ホップ農家への技術指導や、疫病に強く苦味成分が豊富に含まれるホップの育成、新種ホップの開発などを行っています。

その研究所から今年5月、新たにリリースされた2種類のホップが、香りのユニークさから話題になっています。ホップの名前は「アリアナ(Ariana)」と「カリスタ(Callista)」。前者は、西洋スグリや桃、カシス、かんきつ類をイメージさせる香り。後者は杏やパッションフルーツ、ラズベリー、かんきつ類をイメージさせる香りを持ちます。まだ生産量が少なく、流通には乗っていませんが、個性的なキャラクターは、これまでになかった香りのビールを造りたいと考えるドイツの醸造家に注目されています。

アリアナとカリスタ
新種のアリアナ(左)とカリスタ(右)

なぜ今、個性派のホップがリリースされたのでしょう? 背景には近年の「クラフトビール」のブームがあります。米国に端を発し、伝統にとらわれない自由な発想で造るクラフトビールは、多彩な味わい。副原料としてハーブやフルーツ類で味付けすることもあり、クラフトビールの影響で消費者やドイツの醸造家がより個性的なビールを求めるようになりました。ところがドイツには「ビールの原材料は麦芽とホップ、水、酵母以外使用してはならない」と定められたビール純粋令があります。EU加盟にあたり、この法律は効力を失っていますが、一つの価値、ブランドとして大切に守られています。純粋令を守りつつ、クラフトビールのような個性的なビールを造ることを試みたとき、その鍵となったのが新種のホップでした。

2012年にも、個性的な4種類のホップがリリースされており、すでに国内外の醸造所が香りの新機軸として使用しています。これらのユニークなホップを使ったビールがドイツのスーパーマーケットに並ぶ日も近いかもしれません。フルーティーな香りのビール、楽しみですね。

 
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