骨粗しょう症と歯科の関連性
骨粗しょう症という病名をご存知でしょうか。これは骨密度(骨の強さ)が低下する病気で、軽くつまずいたり、転倒するだけで簡単に骨折してしまい、さらにはQOL(生活の質)が低下することが大きな問題です。
この病気は特に閉経後の女性に多く、50代以上の女性の約3分の1が骨粗しょう症にかかっていると考えられ、日本国内での患者数は1100万人を超えるともいわれています。しかし多くの場合は無症状であるため、骨折を起こして初めて発覚することが大半です。
予防としては、カルシウムやビタミンDを多く含む栄養摂取や適度な運動と日光浴、また過度の飲酒を避けるといったことが挙げられます。ところが日照時間が短く、気温も急に下がるドイツの冬では、身体を動かすことが面倒になりがち。さらにクリスマスが近づくとパーティーなども増え、油断すると飲酒量が増えてしまうので注意が必要です。
さて、今回のコラムのタイトル「骨粗しょう症と歯科の関連性」ですが、実はこの病気自体は歯と全く関係ありません。しかし、骨粗しょう症を治療するために使用される「ビスフォスフォネート(BP)製剤」という薬剤が、歯の健康と大きく関っているのです。
BP製剤は、骨を壊す「破骨細胞」の骨吸収機能を阻害することによって、骨密度を上げる効果が高いため、骨粗しょう症治療の代表的な薬剤として知られています。また、骨転移を伴う悪性腫瘍や骨形成不全症など、骨が弱くなる症状を特徴とする病気にも多く使用されています。骨粗しょう症や骨疾患にとても有用なBP 製剤。ところが歯科の現場では、「顎骨壊死(がっこつえし)」という大きな問題となる副作用に直面しています。
顎骨壊死はその名の通り、顎の骨組織が死ぬことによって骨が口腔内に露出し、強い痛みや歯の脱落、また継続的に膿が出るなどの症状を起こします。顎骨壊死を発症すると、痛みによる摂食制限などQOLが著しく低下し、治療に際してはBP製剤を止めた上での手術が必要になります。
実はこの副作用が初めて報告されたのは2003年で、世界中に周知されたのは比較的最近になってからです。日本では、容易に骨密度の増加が期待できるため、骨折予防などの目的で適切なリスク開示がないままBP製剤が大量に投与されている現状があり、将来的に顎骨壊死の爆発的増大が懸念されています。
これだけ重篤な副作用の情報が明らかになっているにもかかわらず、日本でこの問題が放置されている要因は「医科と歯科の情報共有」など全体的な連携不足。一方ドイツでは、2008 年に口腔医学会と政府が主体となり、30以上の関連医学会が「BP製剤による顎骨壊死」に特化した組織を立ち上げ、科学的に副作用の影響や予防・治療法を解析して全国の医療機関に徹底した情報提供を行い、その結果、顎骨壊死症例を大きく減少させることに成功しました。
日本とドイツそれぞれに医療の優れたところがありますが、異なる医療分野で疾患を総括的にとらえ、それを国民医療に反映させる点においてはドイツが先を進んでいるようです。
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