ジャパンダイジェスト

学校歯科健診の功罪と口腔衛生の重要性 3

学校歯科健診の功罪と口腔衛生の重要性 3

当コラムでは2回にわたり、日本で学校歯科健診が始まった時代背景や歴史、そして健康維持のためのはずの学校歯科健診が引き起こす問題についてお伝えしてきました。学校歯科健診シリーズの最終回は、「どうやったら子供の口腔内の問題を減らせるのか」という話です。

子供を持つ親御さんから「学校歯科健診が信用できないんだったらどうすればいいのか」とよく質問されるのですが、その時には「自家用車の車検」に例えて説明をしています。自動車の所有者は定期的に車検を行う必要がありますが、これは車体に潜む小さな問題が後の大きな事故に繋がる可能性があり、自動車を保守管理する義務があるからです。そのため、問題が起こる前に車検場で検査を行い、もし何か異常が見つかれば修理や部品交換を行って、常に安全に自動車を運転できる状態にします。

実は、歯科健診と車検はどちらも「問題が起こる前に検査をする」ことが前提となっているという意味で非常に似ているのです。これは歯科疾患が風邪や怪我などの一般医療とは違う性質を持っていることによります。例えば、風邪をひいて診療所で診察を受けると医師の診断をもとに薬を処方してもらえますが、この薬の役目は身体の辛い症状を抑えるだけであって、あくまでも身体の自己免疫力が風邪を治します。骨折の治療も同様で、ギプスが骨折を治すのではなく、身体の治癒能力が骨折を治すのです。したがって一般医療の場合、患者が自分で体調を回復させる能力があることを前提として、その「自己治癒のお手伝い」が目的になります。

一方、虫歯は一度細菌が侵入すると、基本的に二度と回復することはなく、放っておくと虫歯菌が歯の内部に進行していきます。したがって、虫歯の部分は削らなければいけないのですが、一度削られた歯は自己治癒能力で元の形に回復することはありません。(詳しくは2016年10月21日発行の当コラム参照)。つまり、歯科医療においては二度と戻らない身体の組織を失わないために「定期的な点検=歯科健診」が必要不可欠なのですが、前回のコラムでお伝えした理由から、現在の日本の学校歯科健診は車の点検で言うと「見た目だけの車検」を行うようなものなのです。

そのため、整った設備があるところでの車検と同様、歯科健診は歯科医院で行うことが重要。歯科医院での歯科健診では、最初に問診票で全身疾患や体質的な問題の有無や、日常的な食べ物の嗜好や歯磨きなどの習慣、また歯科治療の経験についてなどをチェックします。それらの情報によって、個人に合わせた歯科健診や治療を行うことができるようになります。

また歯科健診は虫歯や歯肉の検査だけでなく、顎のレントゲンを撮影することにより永久歯の数や生え変わりの状態、将来的に予想される咬み合わせの不正などの情報も得られます。

そして、虫歯予防で最も重要なのは「ブラッシング指導を含めた口腔クリーニング」。子供自身が歯の汚れを認識したり、歯の磨き方を覚えるのは大切なことですが、実際には10歳以下の子供は自分で綺麗に歯を磨くことができません。そのため小児歯科の口衛生プログラムでは、歯科衛生士が子供の口腔クリーニングだけでなく、子供と保護者の両方に「どのように歯磨きをすればいいのか」を教えてくれるのです。

虫歯

「さぞかし高額な治療費がかかるのではないか」と思われるかもしれませんが、公的保険加入者でも、初診と1回の口腔クリーニングだけであればそれほど費用はかかりません。しっかりとした子供の歯科衛生プログラムを受けるため、小児歯科医師が勤務する診療所を受診することをおすすめします。

 
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