第7回ドイツ銀行業界が構造不況に陥る理由
ドイツ経済が苦境に陥っていることを前回取り上げたが、ドイツ経済を支えるべきドイツの銀行業界が、苦境の中でずっともがき苦しみ続けていることは意外と知られていない。今回は、出口の見えないドイツ銀行業界の苦悩について解説したい。
- ユニバーサルバンク、公的貯蓄銀行、非上場がドイツ銀行業界の特徴
- 長期にわたる低収益および高コスト体質に苦しんでおり、解決の見込みが立っていない
- ドイツの銀行監督を担うBAFINとBUBAも妙案はなく、不安を募らせている
ドイツ銀行業界の特徴
業するユニバーサルバンク制度を採用していることだろう。銀行と証券会社が一つになっているようなものなので、一つの口座の中で、預金や振り込みなどの銀行取引と株・国債・投資信託などの証券取引が全て完結できる。私自身、かなりアクティブに証券投資を手掛けているので、銀証分離が厳格な日本では味わえないような便利さをドイツで実感している。
次に目立つのは、Sparkasseという公営銀行が幅を利かせていることだ。地方自治体が保有し、市町村ごとに存在する公的貯蓄銀行で、日本ではなじみのない業態である。地域振興や貯蓄形成促進など公益を追求する一方で、実は民業をかなり圧迫している。
また、ドイツ銀行やコメルツ銀行などの大手銀行以外のほとんどの銀行が非上場で、データが手に入りにくいこともドイツの銀行の特徴の一つだ。日本のように気の利いた業界分析や財務ランキングの類いは全く手に入らないので、ドイツ銀行業界の全体像は分かりづらくなっている。また、非上場企業は、株主からの収益追求圧力がない分、低収益体質に陥りやすい。
ずっと低収益に苦しんでいるドイツ銀行業界
ドイツの銀行セクターは、長期にわたって低収益に苦しんでいる。日本と同じくらいの密度で銀行や郵便局の支店がひしめいている上、公営貯蓄銀行など、収益よりも地元経済への貢献を優先する非上場の銀行が多いため、過当競争状態(同業の企業が市場占有率を拡大しようとして起こる過度な競争)になっているのである。昨年からユーロ金利が上昇し始めたものの、長期にわたる低金利・金利低下局面において過当競争で圧迫され続けてきた利ざや(貸出金利と調達金利の差による利益)の縮小はいまだに続いている。金利上昇はそろそろ終わりが近いので、利ざやの回復は今後も期待薄だろう。
加えてアンチマネーロンダリング、デジタル化、気候変動などへの対応で、コスト負担は重くなる一方である。ドイツ銀行業界全体の自己資本利益率(ROE)は、2021年に5.03%、2022年に4.85%と、本来望ましい水準とされる10%の半分程度にとどまっている。
そのような状況のため、上場されている銀行の株価も冴えない。10月10日時点のドイツ銀行の時価総額は205億ユーロ(約3.2兆円、1ユーロ=157.50円換算)と、三菱UFJ銀行の15.3兆円と比べて格段に小さく、ドイツのトップバンクの価値は日本のトップバンクの2割程度という状態になっている。
構造不況業種だけあって、リストラの進捗とともに銀行と支店の数はどんどん減少しており、昨年末時点で銀行数は1458(ユーロ導入前の1998年比マイナス57%)、支店数は2万446(同マイナス66%)となっている。デジタル化の進展と共に、今後もこのトレンドは続く見込みである。
ドイツの銀行数と支店数
2012 | 2017 | 2022 | 10年前比 | ユーロ導入前 (1998年)比 |
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銀行数 | 2,053 | 1,823 | 1,458 | -29% | -57% |
支店数 | 36,283 | 30,126 | 20,446 | -44% | -66% |
不安を募らせるばかりの銀行監督当局
ドイツの銀行監督は、ドイツ連邦金融監督庁(BAFIN)とドイツ連邦銀行(BUBA)が協働して担う。メインはBAFINだが、BUBAは中銀オペ(公開市場操作)や決済などの日常業務での銀行との接点を活かし、情報収集やデータ分析面でBAFINをサポートするという役割を担っている。
今のところ銀行セクター全体として、資本とその流動性は十分厚く、金融システムの安定性は問題なしとされている。しかし今後は貸倒損失が増加し始め、さらに気候変動対策やデジタル化などにうまく対応しきれない銀行も出てくるため、金利大幅上昇後も大して改善しない銀行の収益性に金融当局は不安を募らせているはずである。特段妙案も見当たらないので、脆ぜいじゃく弱な銀行を個別に厳しく監視しつつ、安易な配当・自社株買い・ボーナス支給などを抑止するのが精一杯というのが実態のようである。
法人でも個人でも、ドイツの銀行はそう簡単には口座を開設はさせてくれず、預金金利は低い&貸出金利は高い、本人確認などの管理面でもいちいちうるさい……といった不満を感じていらっしゃる方が多いのではないかと思う。しかしそれは、ドイツのサービス砂漠や外国人に対する警戒感とはあまり関係ない。ドイツの銀行は、長年非常に苦しい経営環境下にあり、当局からの監督は年々厳しくなるばかりなので、一人ひとりの顧客をしっかり管理しながらできるだけ収益を稼ごうとする以外に道がないのである。