第13回下方修正続きの経済成長率予測 今注目すべきポイントは?
ドイツ経済の低迷が予想外に長期化し、成長予測の下方修正が繰り返されている。米大統領選挙でトランプ再選の恐れ、人手不足の深刻化など、社会全体のリスクも高まっている。今回はそれらの状況変化を踏まえた上で、リスク管理において注目すべきポイントをあらためて整理しておく。
- 今年のドイツ経済成長率予測は最近大幅下方修正、景気回復への手応えもほとんどない
- 短期的にはトランプ再選、中長期的には人手不足を最も警戒すべき
- 低成長環境下での売上確保、労働時間短縮や円安長期化への対応で必要なアクションを
回復が遅れるドイツ経済今年も強い成長は期待薄
ドイツ5大経済研究所の春季合同経済予測によると、2024年ドイツ実質GDP(国内総生産)成長率予測は、昨秋(9月)の+1.3%から、今回(3月)+0.1%と大幅に下方修正された。ウクライナ戦争をきっかけとするエネルギー危機はほぼ終息しているものの、①ドイツ経済が販売・調達両面で大きく依存する中国経済が、不動産バブル崩壊により極度の不振に陥っていること、②今年度政府予算に対する違憲判決で財政が緊縮的運営になっていること、③金利上昇で投資全体にブレーキがかかっていること、④一時的悪天候、インフルエンザ流行による病欠、ストライキ頻発など経済活動の下押し材料が積み重なったことが、経済低迷の原因と思われる。
ユーロ圏でのインフレ克服はまだ確実とはいえない状況ではあるものの、ユーロ圏GDPの約3割を占めるドイツ経済がこれほど不調なこともあり、金融市場は欧州中央銀行(ECB)に対し、年内累計0.75%弱の利下げを6月に開始することを催促している。この利下げ期待を好感して、DAX株価指数は史上最高値を連日更新するほど堅調に推移しているが、各種景気先行指数がまだまだ低水準にあるだけでなく、インフレを上回る賃上げで懐具合が温まってきたはずの家計も購買より貯蓄を優先しており、個人消費が増加基調に転じる気配は確認できない。ドイツ連邦銀行によると、今年第1四半期の実質GDP成長率(4月30日発表予定)は前期比マイナスとなり、昨年第4四半期の▲(マイナス)0.3%の後も経済縮小が続く見込みだ。ドイツ経済回復の手応えは今のところ見当たらず、個人消費と輸出の回復を祈るようにして待ち焦がれている状況である。
独5大研合同経済予測(前年比)
2023年 | 2024年 | 2025年 | 一言メモ | |
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実質GDP | ▲0.3% | +0.1% | +1.4% | 今年の成長予想大幅下方修正 |
名目GDP | +6.3% | +2.4% | +3.0% | 昨年比で売上に減速感出やすい |
インフレ | +5.9% | +2.3% | +1.8% | 高賃上げで上振れリスクも |
1人当たり賃金 | +6.1% | +4.6% | +3.4% | 週休3日制/時短拡大も要注意 |
世界貿易 (実質ベース) |
▲1.9% | +1.3% | +2.2% | 中国向け輸出に下振れリスク |
ドイツ経済最大の脅威は「トランプ再選」と「人手不足」
ドイツは、とりわけトランプ再選を恐れている。同氏が公約通り、中国に対して60%、それ以外の国々に対して10%の関税を導入したとする。経営者団体系シンクタンクIWの試算では、選挙後4年間のドイツの経済損失は米国向け輸出産業(特に自動車業界)を中心に1200億ユーロ強(23年名目GDPの3%相当)となり、失業者は約20万人増加する。さらに、米国がウクライナ支援の停止や北大西洋条約機構(NATO)脱退に踏み切れば、ドイツの財政負担が長期にわたって増加し、脱炭素やデジタリゼーションへの対応やインフラ整備に必要な投資が圧迫される。一方で関税の影響が少ない米国や低コストの新興諸国への拠点シフトで産業空洞化が加速し、ドイツ経済の低迷が固定化するリスクもある。
中長期的には人手不足も難題である。2月21日に発表された政府年次経済報告によると、ドイツ経済最大の課題は団塊世代の大量退職に伴う労働力不足であり、海外熟練労働者誘致、女性・シニア・移民による労働力のフル活用、職業再教育の強化などを通じた労働供給の量的・質的強化が喫緊の課題とされている。ところが、ストライキが繰り返されていたドイツ鉄道の労使交渉での最大の争点であった労働時間短縮(を通じた労働者の負担軽減)が段階的に実現されることが決まり、労働供給はますます圧迫されるだろう。少子高齢化の急速な進行に伴い、移民では補いきれない労働力不足が深刻化するなか、もともと労働時間が短いドイツでさらなる時間短縮を強いられるような状況は、どの企業経営者にとっても大きな頭痛の種となる。
低成長下での売上確保、労働時間短縮と円安長期化への備えが重要
昨年12月(本誌1208号参照)と比べて最大の変化は、成長率の大幅下方修正である。今年の名目成長率は昨年の6%台から今年は2%台に大きく切り下がる上、企業と家計の景況感が予想以上に悪化しているため、計画策定時より売上目標達成の難度が上がっていることを覚悟する必要がある。
現在進行中の労使交渉では、賃上げだけでなく、賃金を減らさずに労働時間だけを短縮することによる実質的な賃上げもかなり熱心に追求されている。週休3日制に限らず、労働時間全般の短縮に対する備えを進めておく必要もありそうだ。
また、円安基調が予想以上に長引いていることも気がかりである。インフレの高止まりでECBが利下げに慎重になり、現在のユーロ高円安が長期化する可能性がある。日銀が実際にマイナス金利を解除した後でも1ユーロ160円超の円安ユーロ高が定着してしまっているので、円安が採算悪化要因となるような場合には、為替予約などのヘッジを多め・長めにしておいた方が良さそうだ。