第14回ドイツ経済低迷の一因 建設・不動産業界をウォッチ!
近年のドイツ建設・不動産業界の不振は、ドイツ経済全体の低迷長期化の一因となっている。今回は各種データに基づいて同業界の現状と展望を分析した上で、簡単なフォロー方法や注意すべきポイントを整理しておく。
- 建設・不動産業界の低迷は当面続きそうだが、新規契約家賃は意外にも上昇している
- 上場されている業界主要企業2社をざっくりフォローすると良い
- 不況だからといって不動産の買い手、借り手が強気に出られる状況ではない点に注意
ドイツ建設・不動産業界の主要データを確認
一つの会社で建設業と不動産業の両方を手掛けることも多く、ちょっと紛らわしいかもしれない。建設業とは、建物の新築や改修、道路やトンネルなどの土木工事などを手掛ける第二次産業で、不動産業とは、土地や建物の売買、不動産の売買・賃貸の仲介や管理などを手掛ける第三次産業である。連邦統計局のデータによると、建設業は国内総生産(GDP)の約6%を占め、284万人もの雇用を生んでいるが、年間投資金額ベースでざっくり6割が住宅、3割が商業用、1割が公共工事というウエートになっている。一方、不動産業はGDPの約9%を占め、40万人を雇用する。両業界のGDPシェア合計は約15%であり、日米の17%とほぼ同じだ。
最近のドイツは主要国の中で最も深刻な経済低迷に見舞われているが、建設・不動産業界は特に厳しい状況にある。インフレや人手不足に起因する賃上げによるコスト増のため、新築物件が高くつきやすい一方、欧州中央銀行(ECB)の政策金利引き上げに起因する市場金利上昇のため、不動産の買い手や借り手(顧客)の資金調達コストが上昇している。ifo研究所の予想によると、建設業では特に住宅の不振が深刻で、GDP成長率ベースで今年は前年比▲(マイナス)3.3%、来年は+0.2%となる見込みである。不動産業では売買が激減しており、今年はゼロ成長、来年は+1%と予想されている。また、ドイツ連銀のデータによると、足元の住宅用不動産価格は2022年のピーク比1割程度の下落、商業用不動産価格は2割程度の下落となっている。
こうした状況下でも、家賃が上がり続けている点には注意したい。物価全体の上昇に加え、新築物件の供給が急減した分、既存物件での需給関係がタイトになっているため、都市部の住宅家賃やオフィス賃料は年5%前後のペースで上昇し続けている。
ドイツ建設・不動産業のGDPシェア
日本 | 米国 | ドイツ | 一言メモ | |
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名目GDP規模(2023年/兆ドル) | 4.2 | 27.4 | 4.5 | ちょうどドイツが日本を抜いたところ |
建設業のGDPシェア | 5% | 4% | 6% | ざっくり6割が住宅、3割が商用、1割が公共 |
不動産業のGDPシェア | 12% | 13% | 9% | 日米と比べると、やや低め |
実質GDP成長率(2024年/IMF予測) | +0.9% | +2.7% | +0.2% | ドイツは昨年の▲0.3%の後も低迷継続 |
ヴォノヴィア社とドイツファンドブリーフ銀行をフォロー
特定業界をウオッチしたい場合、当該業界の主要企業が上場されているならその株価やニュースをYahoo!ファイナンスなどでフォローすると良い。ドイツの建設・不動産業界ならばDAX採用銘柄の中に、住宅用不動産の販売・賃貸・管理でドイツ最大手のヴォノヴィア社(株式ティッカー:VNA.DE)がある。同社は2023年まで2年連続赤字で、株価は2020年9月のピークと比べて2023年3月に約3割の水準にまで低下したのち、足元はピークの半値くらいまで戻しつつ弱含みで推移している。ドイツ建設・不動産業界の現状と展望をちょうどうまい具合に表現するような値動きとなっており、同社株価をチェックするだけでもかなり有益なはずだ。
また、不良債権問題で銀行システムが危険な状況に陥る兆候を察知するためには、ドイツファンドブリーフ銀行(PBB.DE)をウオッチすることをおすすめしたい。同銀行は、米国と欧州の両方で商業用不動産向け融資を積極的に手掛けてきた不動産金融専門中堅銀行で、命と引き換えに危険をいち早く知らせる「炭鉱のカナリヤ」として注目されている。株価は2020年2月のピークに比べて3割程度の水準で低迷を続けているが、赤字に転落することなく、信用格付けも投資適格(S&P:BBB-)を維持しているので、現時点で経営危機に陥る可能性は低いとされている。ただし、同銀行はその規模の大きさからも銀行システム不安の震源地となる可能性が高く、私はここ1年ほどずっとフォローし続けている。
買い手や借り手が強気になれるわけではない
ドイツをはじめユーロ圏全体の経済低迷にテコ入れすべく、ECBは6月から利下げを開始する見込みだが、ドイツ建設・不動産業界の回復は、その金融緩和効果が出始める来年以降になるとみられている。建材や家具などの周辺関連業界も含めて、当面は苦しい状況が続くと覚悟しておくべきだろう。
ただし、賃上げと資材価格高騰による建設コスト上昇が続いているため、新築物件を中心に不動産価格のさらなる低下余地は限定的だ。実際、住宅価格にはすでに上昇に転じている可能性もある。また、上述の家賃上昇ペースも減速する兆しは見られず、時間の経過と共に新規契約家賃水準は切り上がってゆく可能性が高い。不況だからといっても、転居やオフィス移転による節約が容易なわけではないので、くれぐれもご注意いただきたい。