ジャパンダイジェスト

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計13年間ドイツに駐在。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第17回「デジタルユーロ」がやって来る?今押さえておくべきポイント

欧州中央銀行(ECB)が「デジタルユーロ」導入の準備を着々と進めている。実際の導入はもう少し先になりそうだが、ひとたび導入されれば世の中が激変する可能性がある。今回はデジタルユーロ関連について今から知っておくべきポイントを、ひと通り簡潔に整理しておく。

  • 法定通貨のデジタル化はもはや不可避で、世の中を大きく変える可能性が高まっている
  • 「デジタルユーロ」は2027年から段階的に導入され、現金と併存し続ける見込み
  • 中国を皮切りに雪崩を打って導入される可能性が高い

迫る中銀デジタル通貨への移行

中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、略してCBDC)が世の中を変える日が着々と近づいている。電子マネーと異なり、事前のチャージや手数料は必要なくなる上、ビットコインなどの暗号資産と異なり、価値が安定している。そして何より、法定通貨としてどこでも誰とでもやり取りできるようになる。うまく設計・運用できれば、マネーロンダリングなどの金融犯罪や脱税を防ぎ、海外送金が簡単かつ安価にできるようになり、現金流通に伴う巨額のコストも節約できるだろう。また、途上国ではスマホを持っていても信用面などの理由で銀行口座を持てない人がたくさんいるが、貧困層の金融機能へのアクセスを可能にすることによって、貧困問題が軽減できる可能性が高い。実体経済を裏側で支えるお金の流れが、今までと比べて格段に効率的、迅速、低コストになるということであり、実体経済のポテンシャルがさらに引き出され、より多くの人々を豊かにできる可能性が高まる。

一方で、災害やサイバー攻撃などによる障害、電力の大量消費、金融政策や銀行への悪影響、プライバシー保護、デジタルデバイドなど、中銀デジタル通貨実現のハードルは決して低くない。しかし、デジタルで置き換え可能なものはどんどんデジタル化される大きな流れの中で、法定通貨のデジタル化はもはや避けて通れないものともいえる。

デジタルユーロの方向性

ECBが導入を目指す「デジタルユーロ」は、早ければ2027年にも利用可能となる見込みだ。各国政府やECBが全てを担うわけではなく、ユーザーに近い部分を中心に銀行などの民間企業に一部を委ねる構造となる。まずは店頭レジ、ネット販売、個人間支払い、納税や給付金など、優先的に導入すべき領域を絞り、慎重かつ段階的な導入を目指す。それに必要なテクノロジーの選択や各種ルールの整備などが進められているわけだが、法定通貨の流通は基本的に無料としたいので、民間の担い手に対して経済的インセンティブをサステナブルに創出できるかが大きな課題だ。また、デジタルユーロが金融政策や金融システム(特に銀行)に与える悪影響(預金の大量流出など)も心配で、利用上限を3000ユーロにするなどの対策が検討されている。

ドイツ連邦銀行の統計によると、ドイツ人は現金を100ユーロ持ち歩き、支払い時の決済の約6割(件数ベース)を現金で済ませている。ドイツ人の現金好きの背景には、国民を監視・抑圧する政権の台頭を許した過去への反省がある。デジタルユーロ普及のカギを握るプライバシー保護の問題は、最優先事項として配慮されることが約束されており、デジタルユーロは現金を駆逐することなく、あくまで追加的支払い手段として提供される見込みだ。

中国が導入に踏み切るか?主要各国の動向

ユーロ圏、米国、中国、日本での中銀デジタル通貨の準備状況について、各通貨の関連データと併せてこちらの下表にまとめておく。

中銀デジタル通貨の準備状況

国/地域 名目GDP
(IMF, 2024)
世界全体
のシェア
法定
通貨
外貨準備
シェア
(IMF, 2024Q1)
電子決済
シェア
(SWIFT, 2024/5)
中銀デジタル通貨への取組み状況
ユーロ圏 16兆ドル 15% ユーロ 20% 23% 2023年11月に「調査」から「準備」フェーズに移行。各種ルール整備等を進めている。
米国 29兆ドル 26% 米ドル 59% 47% 当初は取組みに消極的だったが、中国などへの対抗上必要な準備を進めている。
中国 19兆ドル 17% 人民元 2% 5% 資金トレース(国民の監視)と国際通貨覇権を狙って、大規模実証実験を積極展開中。
日本 4兆ドル 4% 日本円 6% 4% 必要に応じて迅速に対応できるよう、日銀が中心となって実験と議論を重ねている。

他国が国外でも利用可能な中銀デジタル通貨を導入した場合には、当該外貨が自国で広く普及する前に、自国の中銀デジタル通貨を素早く導入して対抗せざるを得なくなる。今後の展開としては、まず中国が資金トレース(国民の監視)強化および国際的影響力拡大の手段として、準備が整い次第、中銀デジタル通貨導入に踏み切るはずだ。日米欧は、デジタル人民元が自国や国際間で実際にどのように使われるかなどを見極めつつ、自国の中銀デジタル通貨の設計や導入時期を固めることになるだろう。

現時点では何ら対策を講じようがないものの、中銀デジタル通貨が導入されれば、特にグローバル企業においては顧客や仕入れ先との決済、グループ全体の資金・為替マネジメント、銀行とのリレーションなどの面でかなり大きな影響が出るはずだ。本コラムでは、今後も中銀デジタル通貨に関する情報をタイムリーに取り上げてゆくつもりである。

 
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