ジャパンダイジェスト

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計13年間ドイツに駐在。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第20回グローバル化の逆流で苦悩するドイツ経済?

グローバル化で勝ち組として存在感を示してきたドイツが、近年その逆流に苦しみ始めている。2023年の名目GDP(国内総生産)では日本を抜いたドイツが、なぜ今伸び悩んでいるのか。来年以降の経営環境を展望しつつ、ドイツを拠点とする日系ビジネスパーソンが当面念頭に置いておくべきポイントについて整理しておく。

  • ドイツ経済は2年連続のマイナス成長後も、日本同様の低成長が続く見込み
  • 日欧金利差が縮小に向かうため、当面は円高ユーロ安が進みやすい局面
  • 当面のキーワード:円高ユーロ安ヘッジ、売上・人材確保、サプライチェーン再構築

2年連続マイナス成長の衝撃

10月9日に発表されたドイツ政府の公式経済予測では、実質GDP(国内総生産)成長率が、昨年の▲(マイナス)0.3%に続いて、今年も▲0.2%と2年連続のマイナスとなっており、国内外に衝撃を与えた(下表)。ドイツの潜在成長率は年+0.5%程度で日本とほぼ同水準にあり、ドイツもいよいよ日本同様の低成長時代に突入したといえる。

ユーロ/ドルの実勢レートは、IMFの購買力平価比で2割程度割安な水準にあり、為替レートはドイツの輸出に有利なはずだ。しかし、ドイツの上客である中国の景気低迷が予想以上に長期化。同国向け輸出の減少が止まらないだけでなく、グローバル輸出市場で安価な中国製品との競争に苦戦しているため、ドイツの輸出は伸び悩んでいる。ドイツの輸出はGDPの約半分の規模を誇り、金額で米国、中国に次ぐ世界第3位、対外純資産は今年日本を抜いて世界トップに躍り出るなど、ドイツはグローバル化の勝ち組的存在だったが、その逆流(トランプ登場、BREXIT、コロナ、中露との対立など)と共に正念場を迎えている。

ドイツ経済低迷の原因は、①シニア世代大量退職に伴う人手不足、②健全財政にこだわり過ぎることによる過小投資、③脱炭素重視政策の副作用や地政学リスクの読み間違えに起因するエネルギー高、④過度の中国経済依存、⑤EU(欧州連合)法/ESG(環境・社会・ガバナンス)関連で膨張した官僚主義、⑥重い税・社会保障負担など、枚挙にいとまがない。最近はドイツの産業空洞化も心配されている。日本の産業空洞化は主に「円高」対応だったが、ドイツは「エネルギーコスト高」と「保護主義台頭」への対応という点で大きく異なっている。

日欧金利差縮小で円高ユーロ安が進みやすい局面に

ドイツ経済が予想以上に軟化しているため、欧州中央銀行(ECB)は当面利下げを続けることになりそうだ。一方、日本ではゆっくりとした利上げが続くため、日欧間の金利差は今後どんどん縮んでゆく。今夏まで続いた円安ユーロ高の原動力だった日欧金利差拡大が反転しているので、今後は円高ユーロ安が進む可能性が高い。ドイツの大手銀行でも、足元の1ユーロ165円台(11月6日時点)から来年には1ユーロ150~160円への円高が進むと予想されている。

為替リスク管理においては、1ユーロ155円を重要な節目として意識しておきたい。直近日銀短観で、今年度下期の想定為替レートが全企業で156円35銭、輸出大企業では155円77銭となっていたが、これは155円が強く意識され、そのちょっと上で止まる可能性が高いと広く信じられているためだ。なお、ユーロ円のIMF購買力平価は129円34銭なので、155円でもユーロは円に対して2割程度過大評価ということになる。

ドイツの日系企業として留意すべきポイント

ドイツの景気低迷が深刻なので、ECBはユーロ圏景気腰折れリスクを回避すべく、より早め・大きめの利下げに動く可能性がある。為替リスク管理においては、円高ユーロ安に対するヘッジを早め・大きめにしておくべきだろう。また、2年連続実質マイナス成長とはいっても、名目成長は昨年+5.9%、今年・来年+3%と高いので、売上低迷が許される環境ではない。さらに深刻な人手不足が続くなかでの安易な人件費節約は、優秀な人材の引き留めおよび獲得を困難にするリスクが高い点には注意しておきたい。

米大統領選でトランプ氏が再選されたので、トランプ関税(対中国60%以上、それ以外10~20%)はいずれ実現する可能性が高い。米欧双方が輸入関税を20%に引き上げる貿易戦争に発展する場合、ドイツ経済が被る経済損失は1800億ユーロ(約30兆円相当)に達するという試算もある(IW研)。保護主義が台頭する局面では、サプライチェーンを極力販売市場に寄せるのが基本戦略であり、ドイツ・欧州経済の低迷長期化も念頭にグローバル拠点戦略の見直しも必要になるだろう。

ドイツ政府経済予測主要計数(前年比) 2023年 2024年 2025年 2026年 補足コメント
実質GDP ▲0.3% ▲0.2% +1.1% +1.6% 潜在成長率は年+0.4~0.5%
名目GDP +5.9% +3.0% +3.0% +3.5% 名目成長率は決して低くない
インフレ +5.9% +2.2% +2.0% +1.9% ECB大幅利下げを妨げない
1人当たり賃金 +6.4% +5.0% +3.1% +2.9% 来年以降減速も人手不足は継続
 
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