ジャパンダイジェスト

ドイツの花粉症(Heuschnupfen)

ドイツに来てから日本で苦しんでいたスギ花粉の症状が見られないので「良かった」と思っていたのですが、在独4年目となる今年3月半ばより、以前と同じような鼻水、目のかゆみ、くしゃみが止まらずに困っています。これはやはり花粉症なのでしょうか?

Point

  • ドイツにはスギ、ヒノキの花粉症はありません
  • 春先のシラカバ、夏のイネ科植物が主な原因
  • 抗ヒスタミン薬(薬局でも購入可)が治療の主体
  • 減感作療法は、効能と限界をよく理解してから
  • 洗面、鼻うがいなど、日常生活にも留意

花粉症とは

季節性アレルギー性鼻炎

草木の花粉が原因で、くしゃみ(Niesen)、鼻水(Nasenschleim)、涙(Träne)などのアレルギー症状を起こす病気です。花粉の飛ぶ季節だけにみられるので「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれます。

鼻と目の症状、全身症状

「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」の鼻の3 大症状に加え、「涙」「目のかゆみ」「充血」など目の症状を伴うことも多く、 さらに軽い風邪を引いたような熱感、だるさなどの全身症状が加わることもあります。

ドイツに来てから3〜4年で発症

日本では問題にならなかったシラカバやイネ科植物でも、ドイツで毎年繰り返して花粉に暴露されることにより、抗体(IgE抗体、Antikörper)が作られて花粉症になる人がいます。

スギ・ヒノキの花粉症はなし!

ドイツ(欧州)にはスギ、ヒノキの分布はありません。

花粉症のメカニズム

主役は即時型アレルギー反応

花粉症は、異物である花粉を除去するためにつくられた抗体との間で起こる即時型アレルギー反応です。抗原である花粉が鼻や目にある免疫細胞のIgE抗体と結合し、細胞から花粉症の症状を惹き起こすヒスタミンなどの化学物質を分泌することにより発症します。

症状は本来合目的

ヒスタミンは、血管を拡げたり(鼻づまり、目の充血)、血管壁の水分透過性を増したり(鼻水)、かゆみ(鼻のムズムズ感、くしゃみ)を生じる作用があります。これらは異物である花粉を体外に排泄しようとする作用です。

ドイツの花粉症

パンフレット

春先の花粉症

3月からはブナ科のハンノキ属(Erle)、3月下旬〜5 月はシラカバ(Birke)の花粉が猛威を振るいます。4月は市街地、郊外を問わず多くの花粉が飛散し、さらにトリネコ(Es che)、ポプラ(Pappel )、ニレ(Ul me)、ヤナギ(Weide)などの花粉が飛び交います。

初夏から夏の花粉症

5〜8月初旬にかけてはイネ科植物の花粉が主役です。代表はカモガヤ(単にGräserと呼ばれることも)、イネ科植物は違う種類でも花粉の共通抗原性が高く「イネ科花粉症」と総称されています。目鼻に加え、皮ふのかゆみなど全身症状が出やすいことが特徴。

夏から秋の花粉症

キク科のブタクサ(Beifuß)、アンボロシア(Ambrosia)も7月下旬〜8月にかけて、時には10月末頃まで飛び交います。

果物アレルギーと花粉症の関係

主な花粉症でみられる果物アレルギー

シラカバ花粉症 モモ、リンゴ、ナシ、サクランボ、キウイ
ブタクサ花粉症 メロン、 バナナ 、スイカ
カモガヤ花粉症 オレンジ、レモン

「 口腔アレルギー症候群」って何?

果物アレルギーは正式には「口腔アレルギー症候群(orale Allergiesyndrom)」と呼ばれています。リンゴ、サクランボ、モモ、メロン、キウイなどの果物を食べると、口の中がピリピリとむず痒くなるのが症状です。

花粉症があって生じる果物アレルギー

果物アレルギーは花粉症と密接な関係があります。花粉症を起こす草木と植物学的に同じ科に属する果物では、抗原が似ているためアレルギーを起こしやすくなります。 シラカバの花粉症ではサクランボ、リンゴ、モモ、ナシ、イチゴ、キウイ、ブタクサの花粉症の人にはメロンやスイカ、バナナ、カモガヤ花粉症はオレンジのアレルギーと関係します(詳しくは本誌937号を参照)。

花粉症の検査

季節と症状から判断

毎年ある季節になると特定の場所で、鼻水、くしゃみ、目のかゆみなどの症状が現れるような場合には、花粉症を疑います。花粉飛来情報と症状の増悪が一致するようであれば、原因となる草木を推測できます。

血液中のIgE測定

IgEの総量でアレルギー性疾患の有無を推測できます。各々の花粉の特異的IgE値を測定すれば、その花粉に感作されているかを判断できます。測定値が高いほど花粉症の原因となっている可能性は高くなりますが、特異的IgE値と臨床症状がいつも相関するとは限らず、原因究明にも限界があります。

皮ふ試験

皮ふに花粉症の抗体がある場合には、即時型アレルギー反応により出されたヒスタミンによって皮膚の赤み、皮膚の盛り上がりがおこります。このテストは間接的に特異的IgE抗体の存在を示しているもので、前述の特異IgE抗体と同様に抗原による感作状況を調べる検査です。診断の参考になりますが、これだけで花粉症の原因を診断することはしません(日本アレルギー学会「一般の皆様へ」の説明より)。

花粉症の治療

抗ヒスタミン薬

花粉症の治療の中心となる薬です。特に、くしゃみ、鼻水が強い花粉症に有効です。花粉によるアレルギー反応によって出てくるヒスタミンという炎症物質の作用を抑える薬です。一般に効果が強いほど副作用である眠気が強くなる傾向があります。

抗ロイコトリエン薬

鼻詰まりの原因となるロイコトリエンという物質の作用を抑えます。数日服用して徐々に効果が高まります。

ステロイド製剤

いくつかの薬の組み合わせでも全く症状の改善が見込めない重症な場合には、一時的にステロイド製剤が用いられることがあります(鼻アレルギー診療ガイドライン 2016より)。ステロイドは血糖上昇などの副作用もあるので、使用の際には留意が必要です。

アレルゲン免疫療法

減感作療法とも呼ばれ、花粉症の原因である抗原(アレルゲン)を少量から皮下注射あるいは舌下投与することで、体を抗原に慣らしアレルギー症状を和らげる治療法です。治療の前に症状が減感作の対象となる抗原によるものかの確定診断が必要です。治療は3〜5年と長期間かかります。また、治療を受けたすべての人に効果が期待できるわけではないことへの理解も大切です(改善30%、少し改善19%、効果なし21%、治療中断30%、東京都福祉保健局の報告書)。

日常生活での留意点

鼻洗浄 Nasenspülung、Nasendusche

鼻腔内に付着した花粉を生理食塩水で洗い落とす方法です。ドイツでは廉価な専用器具が専用の食塩(Nasenspülungsalz)と共に薬局などで販売されています(EMSER Nasendusche®など)。最も安価で副作用のない鼻腔の花粉除去法といえます。

衣服

羊毛の服は綿素材に比べ約10倍も花粉付着率が高く、化繊は綿の衣服の約2倍、絹は1.5倍と報告されています(東邦大学の佐橋先生による平成10年の調査)。衣服を着替える浴室などでは屋内にも関わらず鼻水や咳が出るのは衣服に付着した花粉が原因のことも。

タバコ、アルコール

喫煙は粘膜を傷付け、アルコールは血管を拡張させて鼻づまりを酷くする可能性があるといわれています。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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