ジャパンダイジェスト

テレワークを法制化? 在宅勤務大国への道

パンデミックの第1波で、生まれて初めてテレワーク(在宅勤務)を経験した人も多いだろう。コロナ危機をきっかけに働き方を改革しようと、連邦労働社会省のフベルトゥス・ハイル大臣(社会民主党・SPD)が大きな一歩を踏み出した。

2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相

ハイル労相、24日間の最低日数を要求へ

ハイル大臣は10月4日付の「ビルト・アム・ゾンターク」紙とのインタビューの中で、企業に対し社員が毎年少なくとも24日間テレワークを行なえる制度を導入する方針を明らかにした。企業は、社員のオフィスや工場への出勤が業務上避けられないことを証明できない限り、最低24日間自宅で働くことを許さなくてはならない。ハイル大臣によると24日は最低限の日数であり、経営者団体と産業別労働組合は個別の交渉によって、在宅勤務の日数を増やすこともできる。

大臣は「コロナ危機の経験は、テレワークが可能であることを示した。しかも多くの労働者は、テレワークを歓迎している。例えば幼い子どものいる夫婦が、毎週交代で1日ずつテレワークを行って、子どもの世話をすることも可能だろう」と述べている。

コロナ危機によるロックダウンが引き金

連邦労働社会省の調査によると、国内1460万人の会社勤務者のうち、今年3月以降テレワークを経験した人の比率は36%。これは前年同期(24%)に比べて12ポイントの増加だ。DAK Gesundheit (ドイツの公的健康保険運営者)がコロナ危機前と勃発後にそれぞれ7000人の勤労者にテレワークについて行ったアンケートでも、昨年12月に「ほぼ毎日テレワークを行っている」と答えた人の比率は10%だった。しかし、今年4月には28%と大幅に増えている。

労働者の間でテレワークは好評といえそうだ。DAK Gesundheitの調査によると、回答者の58.7%が「会社よりも自宅で働く方が生産性が高い」と答えているほか、今回のコロナ危機で初めて在宅勤務を経験した人の76.9%が「今後少なくとも部分的にテレワークを続けたい」と答えている。「仕事の間、全くストレスを感じない」と答えた人の比率は、コロナ危機前には48%だったが、コロナ発生後には57%に増えている。

職種により大きな違い

しかしテレワークの実施については、職種によって大きな違いがある。今年3~4月には、銀行などの金融サービス業界やIT業界の大半の社員が自宅で働いていた。DAK Gesundheitのアンケートでも、「私が働いている企業はコロナ危機発生後、テレワークのための体制を急激に拡充した」と答えた人の比率は銀行・保険業界では80%、IT業界では75%に上る。これに対し商業に携わる人の間では37%、医療関連者の間では29%と低くなっている。いわんや、警察官や消防士らがテレワークを行うことは不可能である。

ハイル大臣は、24日間の最低日数を法律で保障することにより、テレワークの恩恵を受けられる市民の比率を増やそうとしているのだ。

労使間で評価が正反対に

ハイル大臣の提案に対する社会の反応はさまざまだ。ドイツ経営者連盟(BDA)のインゴ・クラーマー会長は「ドイツ企業は、すでに可能な限りテレワークの機会を労働者に与えている。政府が法律によって24日間のテレワーク権を企業に強制するのは、現実に即していない。ハイル大臣の提案は、企業にとって可能なことの範囲を超えており、労働者のニーズにも合っていない」と厳しく批判している。

これに対しドイツ労働組合連盟(DGB)のライナー・ホフマン委員長は、「24日という最低日数は少なすぎる。これでは労働者のニーズは満たされない。ハイル大臣は経営者団体に忖度しているのでは」と述べ、在宅勤務が可能な日数を増やすように要求している。

多くの大企業がテレワーク定着を検討

クラーマー会長が言うように、多くの大企業はコロナ危機が去った後もテレワークを新たな働き方として部分的に定着させることを検討している。

例えばシーメンスは今年7月に、コロナ後も一部の社員が週に2~3日自宅で働けるようにすると発表した。ただしテレワークを行うかどうかの判断は社員に任され、工場などで製品の組み立てなどに携わっている社員は除かれる。同社はこのプロジェクトを「ニューノーマル・ワーキングモデル」と命名し、43カ国で働く約29万人の社員のうち、48%に相当する約14万人の社員に適用する。

企業にとっては、テレワークの社員の比率が増えればオフィススペースやエネルギー、社員食堂での昼食代の補助などの経費を節約できる。現在よりも労働時間が短くなり、1時間当たりの生産性が増加するかもしれない。実際、大都市の金融機関の中には、テレワーク社員が増えることを見越して、賃貸オフィススペースの面積の削減を検討している会社もある。

一方社員にとっては、通勤にかかる時間・コストがゼロになるほか、自分の好きな時間に仕事をできるという利点がある。休み時間に家族の世話をすることもできるだろう。ある意味では労使にとって「ウィンウィン」の働き方が将来生まれる可能性もあるのだ。

ドイツはすでに世界でもトップクラスの「時短大国」、「休暇大国」だが、パンデミックが引き金となって働き方がより柔軟になり、「テレワーク大国」への道を進むのかもしれない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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