ジャパンダイジェスト

市民権取得テストに合格できる?

ショイブレ内務大臣は今年9月1日から、ドイツへの帰化を希望する外国人に全国共通テストを受けることを義務付ける。フンボルト大学の教育研究所が編集した政治、歴史、社会に関する310の設問のうち、毎回33問が出題される。このうち最低17問に正しく答えなくてはドイツの市民権を得ることはできない。

試しに、いくつかの設問例にチャレンジしてみた。「ドイツの州の数はいくつですか?」――これは簡単、16州。「DDRとは何の略でしょうか?」――これもやさしい、ドイツ民主共和国。「1970年にブラント首相が、ワルシャワ・ゲットーの慰霊碑の前でひざまづいた時、首相は何を表現したかったのでしょうか」――おっと、これはかなり難しい設問だ。ドイツの現代史についてかなり詳しく学んでいなくては答えられない。彼はナチスドイツがユダヤ人を迫害したことについて、ドイツ人として謝罪したかったのである。

出題される設問の中にはドイツ人ですら、すぐに答えられないものもある。ただし、310の設問は事前に公開されるし、各州は市民権取得テストに備えるための授業も行うので、テストを受ける外国人は、ドイツ語に堪能で、十分に予習をすれば合格することは不可能ではない。

このテストの導入は、ドイツ政府が一定の学力を持ち、社会保障に頼らずに自分の力で収入を得られる外国人を、積極的に迎え入れようとしていることを示している。この国の社会保険制度は火の車であり、自活できずに失業保険や生活保護に依存する外国人にドイツのパスポートを渡そうという気はないのである。これに対し、社会民主党(SPD)の左派や緑の党は、「テストの導入は、外国人の受け入れにブレーキをかける」と批判的だ。

ナチスが外国人を迫害したことに対する反省から、戦後の旧西ドイツは亡命申請者や帰化希望者の受け入れに寛容だった。しかし統一後、台所事情が苦しくなってからは、ドイツ経済が必要とする知識や技能を持った外国人を、優先的に受け入れようとする傾向が強まってきた。だが、世界には自国から政治犯として迫害されているために、ドイツの戸を叩く外国人もいる。いくら台所事情が苦しくても、政治的信条を理由にこの国にやってくる外国人には扉を閉ざすべきではないだろう。

ドイツでは8年間真面目に働き、税金を納めれば帰化申請を出すことができる。日本よりもはるかに寛容である。この国では少子・高齢化が深刻なため、今後人口が大幅に減少するとみられている。従って、勤勉な外国人を受け入れることは、社会保障システムを維持するためにも重要なのだ。

私はドイツに18年間住んでいるので、帰化申請の資格はある。税金や社会保険料を納めているのに選挙権がないことは、いささか不満である。だが、ドイツ国籍を申請する気はない。ドイツ・日本政府ともに2重国籍を認めていないからだ。ドイツのパスポートを得るために、祖国日本のパスポートを捨てる気にはならない。

15 August 2008 Nr. 727

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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