9月6日、メルケル政権はドイツ経済に大きな影響を及ぼす決定を行った。連立与党は、2050年までにこの国のエネルギー政策をどのように転換するかについての戦略を発表したのである。
この戦略の最も重要な点は、ドイツが風力や太陽光などの再生可能エネルギーを電力源の中心に据えることを明確にしたことである。この戦略によると、ドイツは最終的なエネルギー消費の中に再生可能エネルギーが占める割合を、2020年までに18%、2050年までには60%に引き上げる。その時にはこの国で消費される電力の35%が、再生可能エネルギーから作られる。
建物のリフォームなどで暖房効率を高めることによって、2050年の電力消費量は1990年に比べて50%削減される。メルケル政権がこれほど野心的な計画を打ち出した理由は、地球温暖化や気候変動の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量を、2050年には1990年に比べて80%減らすことを目指しているからだ。
さらにメルケル政権は「新エネルギー社会が実現されるまでのつなぎとして、原子力を使うことが必要」として、連邦議会選挙での公約通り、シュレーダー政権が導入した脱原子力政策を変更した。
具体的には、電力会社は1981年よりも前に運転を始めた原子炉については、稼動期間を8年間まで延長できる。それ以降に運転が始まった原子炉については、最高14年間まで延長できる。つまり原子炉の運転期間は、シュレーダー政権が決めた期間よりも平均12年間延びることになる。さらに、電力会社は稼動期間の延長によって巨額の追加利益を得る。このため、メルケル政権は新たに導入される原子力燃料税と再生可能エネルギー基金への拠出金を通じて、電力会社に総額300億ユーロ(約3兆3000億円)を国庫に納めさせる。これらの資金は財政赤字の削減や再生可能エネルギー拡大のためのインフラ作りなどにあてられる。
電力会社は稼動期間の延長という目標を達成したわけだが、手放しで喜ぶことはできない。その理由は、社会民主党(SPD)と緑の党が将来再び政権を取った場合、メルケル政権の決定を覆して稼動期間を短くすると宣言しているからだ。
ドイツが打ち出した戦略は、世界で最も野心的な再生可能エネルギー拡大計画である。しかしこの構想の実現には、巨額のコストが必要になる。たとえばバルト海などに建設されるオフショア風力発電基地から、南部の大都市に大量の電力を送るための送電線を作ったり、石炭火力発電所からのCO2を大気中に放出せずに、地下に貯留するCCSという設備を作ったりする必要がある。CCSについては、その安全性についてブランデンブルク州などで住民による反対運動が起きている。またドイツのエネルギーの40%は民家などの建物で最終的に消費されているので、窓の改修や集中暖房の導入などに多額の投資を行わなければ、エネルギー消費量を減らすことはできない。巨額の財政赤字を支える政府が、そのための資金を捻出できるかどうかは未知数である。
世界で有数の工業国ドイツは、経済力を弱めることなく、今後40年間でシナリオ通りにエネルギー構造を革命的に変えることができるだろうか。道のりが険しいことは確かだが、野心的な構想の今後に注目したい。
17 September 2010 Nr. 834