ドイツにお住まいの皆さんの中には、「この国では日本に比べて、動物に関するニュースが多いなあ」 と思っておられる方も多いのではないだろうか。ドイツは世界でも有数の動物愛護大国である。
ベルリン動物園の人気者クヌートが初めて報道陣に公開された日には、500人ものジャーナリスト、100チームのテレビカメラ・クルーが詰めかけた。確かに可愛い白クマの赤ちゃんだったが、「他に伝えることはないのか?」と感じるくらいの、激しい報道合戦が展開された。
皆さんもご存知のように、日本とは違って犬を連れて地下鉄やバスに乗れるだけでなく、レストランや喫茶店にまで犬とともに入ることができる。昼間に犬の面倒を見る人がいない場合、社員がペットを会社に連れてくることを許している企業すらある。 日本に比べて動物を友人とみなし、「動物の権利」 を尊重する傾向が強いのだ。
犬の学校で訓練を受け、きちんとしつけられている犬は道でヒモを付けずに、歩くことを許されている。飼い主が赤信号で立ち止まると、犬も歩みを止める。ヒモも付けずに、食料品店の前で、飼い主が出てくるのを辛抱強く待っている犬もよく見かける。まるで人間のようだ。義務をきちんと守る場合には、かわりに自由を与える。実にドイツ的なメンタリティーである。
「鶏を狭いケージに押し込むのは、非人間的だ」として、鶏舎の経営者を訴えた市民もいる。牛や羊などの家畜をトラックで輸送する時にも、定期的に休ませ、水を与えなくてはならない。動物の虐待に関するニュースは日本以上に大きく取り上げられる。まるで人間が虐待されているかのように真剣に怒る人は少なくない。ドイツ人が日本の捕鯨について批判的であることも、この動物愛護精神と関係がある。
ある動物愛護団体が、ルーマニアで虐待されていた犬をドイツに引き取ったという話もある。身寄りのない動物の収容施設(Tierheim)にいる動物の引き取り手を探すテレビ番組は、人気の的である。
なぜドイツ人は、ここまで動物を愛するのだろうか?その理由の1つには、ドイツ人の間で、自然と環境を大切にする心が強いということがある。この国の人々が環境保護にかける情熱は、ご存知の通り。さらに、ドイツ社会の個人主義も影響しているのではないか。つまり日本に比べて、家族の絆や会社でのチーム精神が弱く、人間関係が希薄であるために口ごたえしない動物に心の安らぎを求める人も多いのかもしれない。ミュンヘンのような大都市では、住民のほぼ半分が独り暮らしである。仕事の後、疲れて帰っても、家族が誰も待っていないアパートは寂しいが、犬や猫がいれば、少しは心が和む。
これからも、動物たちはドイツのニュースの中で、重要な役割を演じ続けるに違いない。
6 Juli 2007 Nr. 670