ジャパンダイジェスト

第2回ドイツでの歩みと重なる愛すべき本たち

今回の読書案内人
岡本 あきこさん

Akiko Okamoto 岡本 あきこさん

文化プログラムにおけるコミュニケーターや、通訳・翻訳者としても活動。2013年からデュッセルドルフの劇場FFT Düsseldorfにて、日本の先鋭的なパフォーミングアーツ作品を招聘(しょうへい)するNippon Performance Nightのキュレーションを手掛ける。

本と共に生きてきたこれまで

子どものころから本を読むことが本当に好きで、ずっと本と共に生きてきました。特に小説をよく読むのですが、毎晩ベッドに寝転がりながら、ただただ文体を味わうのが至福の時間。加えて私は本を読むスピードが非常に早いので、読んでも読んでも終わらないくらい長い小説を好んで読みます。続きが読みたくて、朝方まで何時間も読みふけることもありますね。

ドイツ生活を支えてくれた本

今回3冊選ぶに当たって、最初に思いついたのが村上春樹さんの『Wilde Schafsjagd』です。邦題は『羊をめぐる冒険』ですが、実は私が初めてドイツ語で読んだ本。語学学校に通っていたころ、とてもドイツ語が上手なクラスメートから「分からない単語があっても辞書を引かずに最初から最後まで本を読むと勉強になるよ」とアドバイスをもらって。高校生のときに夢中になって読んだ本で、あらすじもよく知っていたので、早速買って読んでみました。ドイツ語の本を一冊通しで読めたことはすごく自信になったし、辞書を引かずに読むというのが自分にとって新鮮で。当時分からなかった単語などに鉛筆で線が引いてあって、そういうのを見返すのも面白いですね。

2冊目に選んだのは、水村美苗さんの『私小説 from left to right』。「左から右へ」(from left to right)というタイトル通り、中身も横書きで書かれています。主人公は、両親の都合で幼少期から米国に移住した大学院生。彼女はニューヨークの片隅に住む彫刻家の姉と長電話をしながら、「私たちって本当の日本人でもないし、かといってもちろん米国人でもないし」といった会話をします。長年海外に住む人のリアルな感覚が感じられ、私がルール大学で勉強していたときに読んでとても共感し、慰められたのを覚えています。ここ10年くらい読んでいないので、今読んだらどう感じるかも気になります。水村さんのほかの著書『日本語が亡びるとき』(筑摩書房)もおすすめです。

言語と向き合う日々のなかで

『不実な美女か貞淑な醜女か』は、通訳・翻訳とは何かをはじめ、何に気を付けるべきかなど、言語と関わる仕事をする上でためになることがたくさん書いてあります。例えば、ある発言が翻訳されて聞き手に届くまでに、どういうプロセスで通訳者の頭の中で変換が行われているかが図解されており、笑えるエピソードも満載。何といっても彼女の書く文章があまりにも的確で、語ごい彙も素晴らしく多いです。読んでいてとても勉強になりました。

私自身、日本人のパフォーミングアーツ作品をドイツに招聘し、劇場での上演を行う仕事をしていますが、特に大切にしているのが「言語」のこと。例えば、プログラムの告知や上演前のスピーチを日独両言語で行ったり、上演後のトークでは通訳さんに入ってもらって作家さんたちが日本語で発信できるようにしたり。「誰に届けたいか」を考えるとき、それは「どの言語で発信するか」にも関わってくるのだなと、この仕事をしていて実感します。今後も日本人の方にも劇場にお越しいただけるよう、試行錯誤を続けていきたいです。6月2日(木)と3日(金)には、FFT Düsseldorf(www.fft-duesseldorf.de)にてサウンドアーティストの鈴木昭男さんをお迎えしてのプログラムがあります。ご興味のある方はぜひお越しください。

おすすめの3冊はコチラ

Wilde Schafsjagd Haruki Murakami 著
Suhrkamp

Wilde Schafsjagd

妻が出て行った。その後、広告コピーの仕事をしていた「僕」は、美しく完璧な耳を持った女性と付き合うように。ある日「鼠ねずみ」から届いた手紙をきっかけに、羊を探すために北海道へと向かう。

私小説 from left to right 水村美苗 著
筑摩書房

私小説 from left to right

12歳で家族と渡米し、滞在20年目を迎えた大学院生の「美苗」。米国に溶け込めず、かといって現代の日本にも違和感を覚える彼女。姉との長電話を通して、異国に生きる姉妹たちの姿が浮き彫りに。

不実な美女か貞淑な醜ブス女か 米原万里 著
新潮社

不実な美女か貞淑な醜ブス女か

異文化が交錯するなかで、瞬時の判断を要求される同時通訳者。緊張に満ちた現場を、いかに機転を利かせて乗り越えるか。現場での面白話や苦労譚を通して、同時通訳者の頭の中をのぞき見できる。

 
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