第3回自分の知らない世界へ本を通した旅と風景
Amemal Lollipops あめまるさん
日本のあめ細工屋さんとして、2015年からベルリンを拠点に活動。動物や植物など、ユニークでかわいらしいモチーフが特徴。オーダーに応じてポートレートのあめ細工も。
Instagram: @amemallollipops
色や数を持たない民族のお話
私自身は読書家というわけではないのですが、本友だちが欲しくて読書会に入っています。オンラインのチャットで、読んだ本の感想を言うと反応がもらえたり、反対に面白いマンガや本を教わって私も気が向いたら読むという感じです。
一冊目の『ピダハン』は、本のレビューで衝撃を受けて読みました。この本では、言語学者で宣教師の米国人が、アマゾンの少数民族「ピダハン」の村でキリスト教を広めようとします。そこで村人たちの言語を学んでいくのですが、彼らの文化には神話もなければ、数字や色を表す言葉もありません。彼らは超現実主義で、自分が体験したこと以外は語らないし、「今」しか見ていないのです。
少し前に話題になったユヴァル・ノア・ハラリさんの『サピエンス全史』(河出書房)では、なぜ人間社会がこれほど発展したかについて、「国家」や「お金」など、実態のない虚構を集団で共有できたからだ、ということが書かれていて。一方で、ピダハン村には宗教や神話もなく、それとは正反対の世界観です。彼らは大自然の過酷な環境に生きていますが、「今」だけを見ているので不安や恐れがなく、幸せそうで穏やかに暮らしている。現代を生きる私たちと、ピダハンの人々とでは、どちらが幸せなのだろうと考えさせられました。
AIと「会話」はできるのか?
次にご紹介する『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』は「機械に言葉を教える」ということがテーマになっています。今、人工知能(AI)や自動翻訳がものすごく発達していますが、それがどういう仕組みで、何を表しているのかが私にはいまいち分からなくて。この本では技術的なことではなく、機械と会話するには何が必要か、「会話する」「分かる」とはどういうことかなど、考え方の部分がかみ砕いて書かれています。
例えば機械と話をしようと思うと、質問と答えのペアをたくさん作って機械に覚えさせ、似ている質問や似ている答えなどは、どのくらい似ているかをベクトルで表して認識させるのだとか。人間が話す言葉ってあいまいで有機的なものだと思っていましたが、それが機械相手だと全然違うことに驚きました。もともとSF小説が好きで、いつか自分でも作品を書いてみたいなと思っているので、こうした考え方について知るのは面白いです。
あやとりから見る景色
最後におすすめしたいのが、『極北圏のあやとり』です。これは世界中の伝承あやとりを集めたシリーズの本で、ほかにも南北アメリカやオセアニア編などがあります。私はこの本を、旅がしたいときに眺めています。普段とは違う風景を心の中で想像して、旅をしているような気分になれるのです。
日本のあやとりに「富士山」や「東京タワー」などのモチーフがあるように、世界各地のあやとりもまた、その土地の生活や風土を表しています。例えば北極圏の「山」のモチーフは、アイスランドを旅行した時に見た山の景色に似ているなと思ったり、アメリカ大陸のクワクワキワク族の「子どもの墓」というモチーフでは、過酷な自然環境の中で生きる子どもたちを想像して切なくなったり……。あやとりは線だけのミニマルな表現ですが、こんな風景を見ていたのかな、すごく寒い冬にやっていたのかなと、それぞれのあやとりを考えた人たちの暮らしを想像すると、とてもロマンチックですよ。
おすすめの3冊はコチラ
ピダハン「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L・エヴェレット 著
みすず書房
アマゾンの奥地に暮らす少数民族「ピダハン」。彼らの文化には右・左の概念や、数の概念、神も創生神話も存在しない。著者のエヴェレットが30年がかりで調べたピダハンの哲学が、西欧的な普遍幻想を打ち崩す。
働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」
川添愛 著
朝日出版社
「なんでも言うことを聞いてくれるロボット」を作ることにしたイタチたち。ところがロボットたちは「言葉の意味」を理解していないようで……。AIの仕組みと「言葉が分かる」とは何かについて、丁寧に解説してくれる一冊。
『極北圏のあやとり:極寒の中から生まれた文化遺産』
野口とも 著
誠文堂新光社
身近な自然や生活文化を題材にした「伝承あやとり」について、写真と解説文、とり方の詳細が収録されたシリーズ。極北圏編では、カナダ最北部やアラスカ、シベリア地域に伝わるあやとりを紹介。