わたしをつくる3冊

第15回挑戦する気持ちを後押し音楽家の道を支えた本

今回の読書案内人

Yusuke Matsumura松村祐甫さん

オペラ歌手、口笛奏者。大学4年生のときにオペラを本格的に始め、その後、南ドイツのトロッシンゲン音楽大学に留学。現在はプラウエン＝ツヴィッカウ歌劇場合唱団所属。口笛奏者としてGlobal Whistling Championship 2021で優勝。

自分に合った道を探すきっかけに

もともと本は全く読まなかったのですが、大学2年生のときに父が仕送りと一緒に林修さんの本『いつやるか? 今でしょ!』を送ってくれて。それがすごく面白くて、そこから読書が毎日の習慣になりました。予備校講師である林さんの「いつやるか? 今でしょ!」というセリフが流行っていたころ、僕は社会科教員志望の大学生だったのですが、本当にその道に進むべきか悩んでいました。特にこの本で印象に残ったのが、「大した努力をしなくても勝てる場所で、努力しなさい」という言葉。林さん自身、本当は数学が一番好きだったけれど、あえて現代文の講師を選んだところ、ずば抜けて活躍できるようになった。好きなこと、得意なこと、成果の出ることは違うというのです。

やっぱり音楽の道に進みたい、それも現実的な形で。そう思ったとき、何を選べば自分にもチャンスがあるのかを真剣に考えました。中学から10年くらいチューバという楽器をやっていましたが、自分の伸び代に限界を感じていて。一方で、昔から歌声と口笛を褒められることが多く、歌と口笛で持ち味を活かした方が可能性が広がるのではないかと思うようになりました。そして大学4年生から歌のレッスンや口笛の演奏活動を始めることに。もちろん現実は厳しく苦労しましたが、今振り返ると自分に合った道を選べて良かったと思います。

海外生活での不安を言語化する

2冊目の『言語化の魔力』は、精神科医の方が書いた本です。悩みを捉えどころのないものではなく、言語化することでメンタルを整えるヒントが書かれています。海外生活では、言葉や文化の壁に衝突したり、将来に不安を持ったりすることがありますよね。進学や就職を機に住み慣れた街を離れ、孤独を感じる経験を何度もしましたが、自分から周囲の学生や同僚、日本人コミュニティーなどと関わりを持つことで乗り越えてきました。

もちろん自分で何とかする力も必要ですが、人は一人では生きていけない。この本を通して、自分の悩みを言語化して整理したり、勇気を持って誰かに相談したりすることの大切さを学びました。

大人になっても挑戦し続ける勇気

『声優、東大に行く』は、声優の佐々木望さんが高卒から40代で東京大学に進学するまでの道のりをつづった本。受験のための勉強法なども書かれているのですが、それよりも僕は、この人の生き方や勉強に対する姿勢に感銘を受けました。

佐々木さんはもともと声優志望ではなく、バイト先の先輩に誘われてオーディションを受けたら合格してしまった。でも声優を始めてからは、発声を研究したり、演技の勉強をしたりと、すごく努力をして本物になりました。自分も大人になってからオペラを始めたけれど、周りは音楽高校や大学で経験を積んできた人ばかりで長い間コンプレックスを感じていました。口笛奏者としての活動も、まだまだマイナーな楽器なので、人前で演奏するときに「恥ずかしい」と思ってしまうことも駆け出しの頃はよくありましたね。この本を読んだのは割と最近ですが、彼のように「なってから頑張る」「とりあえずやってみる」というスタイルも良いのではと思えて、これまでの自分を前向きに捉えられるようになりました。とにかく始めて続けてみることで道が開けることもある。そう信じて、これからも頑張っていきたいです。