60 インフレと元本保証と年金保険
「元本保証はありますか?」「リスクはありませんか?」と聞かれることがよくあります。この質問への回答は意外と難しいのです。
まずは利率とインフレの関係を見てみましょう。例えば銀行預金利率がドイツで0.1%、日本で0.01%だとすると、どちらのほうが実質利率は高いでしょうか? 預金利率はドイツが日本の10倍ですが、インフレ率を考慮すると表のように日本のほうが実質利率は高くなっています。とはいっても両国ともに利率よりもインフレ率のほうが高いので実質利率はマイナスになっています。
ドイツ | 日本 | |
利率(例) | 0.10% | 0.01% |
インフレ率(※2017) | 1.56% | 0.37% |
実質利率 | -1.46% | -0.36% |
※2017年のインフレ率の出典: IMF - World Economic Outlook Databases(2017年10月版)
元本保証ということは預けた100ユーロの「100」という数字がそれよりも小さくなることはないという意味に過ぎず、現在の100ユーロ分の価値を保証してくれるわけではありません。表のドイツの2017年でいえば、100ユーロの商品が1年後には101.56ユーロになっているので、100 ユーロではもうすでに購入できなくなっています。元本保証であれば100ユーロという数字は減りませんが、実質的な価値は確実に減るというリスクがあります。
年金保険のように長期で考えた場合、インフレ率が2% だと36年で通貨の価値は半分になってしまいます。つまり元本が保証されていても価値は半分になってしまうのです。
実際米ドルは金本位制ではなくなった1971年から比べると実に90%もその価値を減らしているのです。ですから、元本保証の現金資産しかないということはインフレに対しては確実なリスクとなります。もっとも日本のデフレ期のような場合には現金で持っていたほうが良いことになります。
インフレというのは物価が上がるということですから、価値の上がるもの、不動産や株式市場などに分散して資産を保有または積立てておくことでリスクを分散することができます。リスクのない方法というものはありません。問題はリスクをどうコントロールするかです。そしてインフレで上昇する価値というのは固定金利ではなくリターンは変動するのでその価格に保証は付けられないのです。
法定年金でも個人年金でもその中身はなんらかの金融商品で運用されています。個人年金保険では元本(100%)保証のものもありますが、保証率は自由に変更ができます。保証がある部分というのは主に低利率の固定金利商品で運用されています。
従業員の場合は給与からの天引きで法定年金に積み立てられ、それは保守的に運用されています。法定年金では足りないために追加で入る個人年金もさらに元本保証のものにすると、運用資産全体の中で現金への偏りが大きく、変動相場利率の機会損失もありインフレに対してのリスクは高くなります。年金保険の場合には元本保証率を下げたとしても、受給時に資産が目減りしないように受給10年前から漸次固定金利商品に自動的に移行する仕組みがあるので、受給開始と経済恐慌が重なった場合も心配はありません。