私の娘がドイツの公立小学校に通い始めた次の日、第1回保護者会のお知らせが届きました。「夜8時に教室へ来てください」とあるので、「そんな夜に?!」と半信半疑な気持ちで出掛けました。メモを片手に緊張しながら薄暗い校舎に入ると、同じように少し警戒気味な面持ちの親御さん達がたくさん集まっていました。私はそこで不思議な話を聞きました。「今後、小学校ではどんどん宿題の量が増えます。でも、なるべく宿題を手伝わないで、やり終わったかの確認をするようにしてください」と担任の先生が言うのです。「主体的に勉強する癖を付けるためです」「その姿勢によって、小学校卒業後にどこへ進学できるかが決まりますよ」と、先生は真剣に語っていました。
小学校に入学したばかりなのに、もう卒業後のことを考えて生活するように言われたのです。しかしそれには理由がありました。
前回、ドイツの小学校が4年制であるという話をしましたが、この国では小学校を卒業したら全員が中学校に進む日本のようなシステムにはなっていません。小学校以後の学校が3つのタイプに分かれているのです。3つそれぞれの名称と特徴を一言で表現すると次のようになります。
● ギムナジウム(Gymnasium)= アカデミック系
● レアールシューレ(Realschule)= ビジネススクール系
● ハウプトシューレ(Hauptschule)=手工業系
イラスト: © Maki Shimizu
ギムナジウムは日本で言う“中高一貫教育”の学校で、“アビトゥーア”と呼ばれる大学進学資格を得て卒業します。思考力を鍛える理論的な学習が重視されています。レアールシューレは日本の高校1年生までの学校です。商業に関する実務教科を学び、職業体験が早い段階からカリキュラムに取り入れられています。ハウプトシューレは中学3年が終わると卒業して、職人として弟子入りしたり、職業学校へ進学したり、またはレアールシューレへの編入も可能です。
さらにこの3つの進路タイプを併せ持つ学校“ゲザムトシューレ(Gesamtschule)”もありますが、1つの学校内で3つのタイプに従ったクラス編成がされていて、生徒はやはり3つの選択肢のいずれかに組み込まれます。つまりドイツでは、小学校以後の学校システムが複線型になっていて、単純に言ってしまうと、勉強好きで成績の良い子はギムナジウム、机に向かうよりモノを作りたい子はハウプトシューレ、その中間の子はレアールシューレに進学するというように、能力ごとに3つの学校レベルに区分けされるような形になっています。
イラスト: © Maki Shimizu
どの子がどの学校に行くかは、個人の成績表が判断基準となるので、学力重視の学校システムのように見えますが、単に成績だけで振り分けているわけではなく、子どもの将来性が視野に含まれています。たとえば成績がトップでも、勉強嫌いで大学に興味のない子はレアールシューレに、成績が特に優秀でなくともじっくり考えて学べる子どもは、研究者的素質からギムナジウムへ推薦されることもよくあるのです。子ども1人ひとりの素質と将来性を見つめながら進路を決めていくのです。
とはいえ、文化・伝統を支えてきたドイツ独自の教育システムは、時代が移りゆく中で揺れ動いています。さらに最近は子どもの将来の可能性が最も広がる選択肢としてギムナジウムの人気が高く、そこに進学するためには“主体的に学ぶ姿勢”を身に付けることが大切だと、保護者会で先生がアドバイスするほどです。
ドイツの3分岐型教育システムについて、次回もさらに掘り下げていきたいと思います。