ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

61. ウィーン芸術週間

ウィーンの森からレオポルツブルクを望む
ウィーンの森からレオポルツブルクを望む

よく「ヨーロッパでどこがおすすめですか?」と聞かれることがあるのですが、答えるのに苦労します。ただ、もしその人がクラシック・ファンだったら、迷わずウィーンを一押しします。音楽の種類も多岐に渡っているので一概には言えないのですが、オペラも含めすべてのレベルの平均値が飛び抜けて高いからです。

年間を通して演奏会やオペラのプログラムが組まれていますが、特に5月半ばから6月末まで開催される「ウィーン芸術週間」の期間中は、力の入った演奏会に世界中のオーケストラやソリストなど大物を呼ぶことが多いのです。オペラもプレミエ(新演出のこと)が多く組み込まれたり、歌手や指揮者も実力のある人たちを招いてレベルの高い公演を催しています。

残念ながらここ数年は大物の指揮者やソリストが激減しましたが、ウィーン・フィルを聴くだけでも行く価値はあると思います。彼らの定期演奏会は月に一度程度、土曜と日曜の昼間に行われます(ウィーン芸術週間中は別の日にも演奏会が組まれることが多いです)。夜には彼らの本来の仕事であるオペラ公演があるので、演奏会は昼公演なのです。そんなわけで、ウィーン・フィルを聴いたその日の夜に、オペラやゲストのオーケストラを楽しむことも可能です。

私の体験では、午前11時から小澤さんの指揮でウィーン・フィルの演奏を聴いて、夜にはイタリアの指揮者・ムーティとフィラデルフィア管弦楽団の演奏会という贅沢な1日を過ごしたことがありました。またごくたまに、世界最高峰のオーケストラ2つを同じ日に聴けるなんてこともあり、これはウィーン以外では考えられません。実は、そんな夢のような体験もしたことがあります……。その日は午前11時からラトルの指揮でウィーン・フィルによるベートーヴェン交響曲第9番を聴き、同日夕19時半からはアバドの指揮でベルリン・フィルによるマーラーの交響曲第7番の演奏会。これはアバドがベルリン・フィルの音楽監督として登場する最後の演奏会で、かつて追っかけをしていたと思しき、女性たちの熱気で溢れかえっていました。

気候も1番良い季節ですし、昼間はカフェ巡りをし、演奏会やオペラに行かない夜はウィーン郊外にあるグリンツィングのホイリゲで一献傾けるのも、とても気持ちの良いものです。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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